科学技術振興事業団が材料設計支援基盤物質DBを開発

高分子DB、合金DBをインターネットで試験公開

 2000.04.11−科学技術振興事業団(JST)は、材料設計のための基盤データベース(DB)システムとして、高分子DB(http://kronos.tokyo.jst.go.jp/)と合金DB(http://atlas.tokyo.jst.go.jp/)を開発、インターネットでプロトタイプの公開を開始した。これは、1995年10月からスタートしたプロジェクトで、2001年度中に正式版のサービス開始を目指して、データ蓄積がかなり進んできている。科学技術関連のDB整備で日本は諸外国に遅れているという批判もあるが、材料設計を視野に入れた複合的・包括的DBとして世界的にもユニークなものが出来あがりつつあり、その完成が期待されるところ。

 JSTが開発中の基盤物質DBは、通常のファクトDBのように登録された物性値や学術情報などを検索・表示するだけでなく、計算で物性予測を行ってデータを補完したり、グラフィカルな視覚化機能を合わせ持ったりするユニークなもの。しかも、有機化合物や生体高分子などに比べて、世界的にもまだあまりデータが整備されていない高分子(合成高分子)と合金(一部の無機物質を含む)をターゲットにしている。

 先行しているのは高分子DBで、2年前から無料でプロトタイプの提供をスタートさせ、現在では約2,000人(ユーザー登録が必要)が利用中。1930年以降の文献(60年代を中心に90年代までをカバー)を調査し、ホモポリマー、線形コポリマー、ポリマーアロイを含めて、ポリマー種で1,600件のデータを収録している。正式公開版には6,000件の情報を盛り込む予定。

 とくに、この3月から化学構造でデータ検索ができる機能を追加した。いまは簡易的なものだが、高分子を構成する部分構造をメニューから指定することで、それらの構造を含む高分子のデータを探し出すことができる。また、原子団寄与法などの手法を用いて未知ポリマーの物性を予測する機能については、今年度から開発に着手し、2002年度か2003年度での完成を目指す。

 一方、合金DBも包括的な機能性を狙っており、基礎的なファクトデータを網羅した「基礎DB」、機械設計を行う際に利用できる拡散や照射、クリープ/疲労、引っ張り/衝撃などの現象におけるデータを集めた「エンジニアリングDB」、スーパーコンピューターの第一原理計算で求めた電子構造情報を集めた「計算物性DB」−の大きく3つのDBから構成される。

 このうち、エンジニアリング関連の拡散DBと計算物性DBを試験公開中。計算物性DBについては、アトムテクノロジープロジェクトで開発されたFLAPW法の第一原理計算を用いて固体の電子状態を計算し、そのデータを蓄積している。今後はもっと精度が高いCP法を採用する計画だが、将来的には高分子DBのように外部から接続したユーザーが自分で計算まで行えるようにしたいという。現在は、遷移金属やアルカリ金属など二元系の分子を中心に計算を行っている。

 基礎DBはまだ未公開だが、開発目標の設定に役立つ固有特性DB、類似構造を持つ物質を探し出すための結晶構造DB、標的物質の生成条件を調べる状態図DB、作成した物質の構造を同定するためのX線回折DB−が含まれ、構造マップという形で視覚的にデータを分析することが可能。1900年以降の文献調査(1,000誌)を下敷きに、2001年度中の公開時には結晶構造とX線回折でそれぞれ12万6,000件、物性8万8,000件、状態図データ1万8,000件のデータ量を目標に開発を進めている。

 なお、正式版のサービスが有償か無償かなど、今後不確定な点もあるが、いずれにしても世界の利用者に広く開かれることや、科学技術の資産として長く継続させることを重要視すべきだろう。