MSIがコンビナトリアル材料科学で独hteと提携

ハイスループット実験/マテインフォマティクスのツール開発へ

 2000.04.26−コンピューターケミストリーシステム(CCS)の大手ベンダー、米モレキュラーシミュレーションズ(MSI)は、コンビナトリアル材料科学で独hte社(本社・ハイデルベルグ、ディルク・デームート社長)と提携した。これは新薬の開発に利用されているコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)技術を材料開発分野に応用する試みで、今回の提携はこの分野で役立つ具体的なソフトウエアの開発を目指している点で、商業ベースでは世界初のプロジェクトに当たる。できあがったシステムはMSIを通じて製品化される予定で、これまで計算化学とシミュレーションを重視してきた材料系CCS分野に技術面で一石を投じることができるかどうかも注目される。

 コンビケム/HTSは、基本骨格と複数の置換基の組み合わせによる膨大なバリエーションの化合物を自動合成し、アッセイロボットによって高速大量に定量分析を行うことで、新薬の候補化合物を探索する技術。組み合わせのバリエーションを網羅したライブラリー作成・管理や、大量のアッセイデータを蓄積・解析する“ケムインフォマティクス”と呼ばれるシステムと結びついて、実際の新薬開発で大きな成果をあげてきている。

 この結果、医薬系CCSの主流は、計算化学や分子モデリングから、“バイオインフォマティクス”を含むインフォマティクス系へと完全に移行しているのが現状。

 今回、MSIとhteが開発するのは、HTSに相当する“ハイスループット実験”(HTE)と、ケムインフォマティクスに相当する“マテインフォマティクス”に関連したソフトウエアツール群。具体的には、触媒や分離、ポリマー、超分子などの材料開発分野に応用できるシステムとして製品化する。

 実験/ライブラリー/化合物の選択とデザイン、化合物/化合物ライブラリーの合成と同定、望ましい特性を得るための化合物とその調合のライブラリーのテスト、実験サイクルにおいて集中化を促進するモデル開発タンといった材料開発の主要なステージを統合できる。全体を通して、研究開発効率は100−1,000倍高まるという。

 hteは、フランクフルト大学のF.シュート教授のグループで活躍していたアルミン・ブレンナー博士らが1999年3月に設立した企業で、HTE技術を駆使した受託研究事業を推進。同年6月にBASFと5年間の共同研究契約を結んでいる。今回のMSIとの提携を契機に米国にも進出しており、4月3日付けでMSIのジョン.M.ニューサムCSO(最高科学責任者)がhte米国オフィスのヘッドに就任している。ニューサム氏はMSIのオフィス(サンディエゴ)にそのままとどまっており、hteとMSIとの調整役を務める模様。非常に密接な関係のもとに共同開発プロジェクトが進むとみられる。

 材料系CCSの世界は、分子軌道法や分子動力学法などの分子シミュレーションが中心だが、材料特性を完全に扱えるところまで計算理論が発達しておらず、ここ数年は技術面の革新という意味でもやや停滞気味の感がぬぐえない。このため、今回のHTE/マテインフォマティクス技術が材料系CCSの新しい世界を開くことができるかが注目されるところだ。