ベストシステムズが国産プログラム振興の新型CCSを開発

100%Javaでプラットホーム不問、超低価格で普及目指す

 2001.02.08−ベストシステムズ(本社・茨城県つくば市、西克也社長)は、国内の大学や研究機関で開発されたコンピューターケミストリーシステム(CCS)関連のプログラム群を共通のプラットホーム上で統合化できる「MolWorks」(モルワークス)を製品化し、販売を開始した。最終的には、物質設計から物質合成、コマーシャル生産、販売まで分子・材料開発のライフサイクル全体を見通したR&D戦略の立案を支援する総合的機能を実現することを目指していく。完全にJavaで開発されており、どんなOS(基本ソフト)環境上でも同一の機能、同一の操作性で利用することができる。価格は1万5,000円(アカデミック1万円)という激安価格を設定しており、電卓のように手軽に使えるツールとして広く普及させていく考えだ。

 MolWorksは、経済産業省産業技術総合研究所産業技術融合領域研究所の長嶋雲兵教授らをはじめとする研究者グループが個人的に作成していたプログラムを持ち寄って構想したもので、ベストシステムズが一手に製品化を行っている。分子設計・材料開発を行うためには、物理的性質、化学的性質、熱力学的性質、分光学的性質などのさまざまな情報を知る必要があるが、それらを求めるソフトウエアはそれぞれ関連性がなく組み合わせた使い方ができなかったり、プラットホームが違えば操作法が異なったりする。そうした不具合を感じていた現場の研究者たちが、それを解消したいと考えたのがそもそもの出発点だったという。

 MolWorksは、分子構造の作成・表示、計算結果の解析を中心とした「計算機化学支援」、状態図やPVT、気液平衡、蒸留などプロセス計算を行う「化学工学計算」、物理化学的性質や熱力学的性質、毒性、安定性、スペクトルなどを予測する「物性推算」、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズム、数理統計手法を用いた「データ解析」、実験値や計算結果などを収録し、複合的に使える「インテリジェントデータベース」、ネットワーク環境に対応した「ネットワークコンピューティング支援」−といった統合的な機能を持っている。

 基本的には分子設計、材料設計を目的としたシステムであり、個々の機能はそのうえで関連づけて利用することになる。「せっかくユニークな材料を開発しても、製造条件が商業的なプロセスに見合わない極低温とか超高圧とかだった場合、それまでの研究が全部ムダになってしまう。つまり、将来に商業生産することや製品として販売する局面まで踏まえて、研究時に何らかの指針が欲しい。その意味では、ベストではなくても判断材料になるレベルの答えが出ればいい。厳密な計算精度ではなく、使いやすいこと、便利さ、速さを重視した」(長嶋教授)という。

 現在のバージョン1.0(昨年9月にリリース)は、計算機化学支援、化学工学計算、物性推算の3つの機能を盛り込んでいる。計算機化学支援は、画面上で分子を組み立ててGAUSSIANとMOPAC、GAMESS用のインプットファイルを作成することができる。今年の3月リリース予定のバージョン1.5では、それぞれの計算結果の出力ファイルを読み込んで解析する機能が追加される。将来的には、ネットワークコンピューティング支援機能と組み合わせて、リモートにサーバー上の分子シミュレーションプログラムを起動できるようにする計画である。

 ベストシステムズでは、海外のプログラムとの連携は入出力ファイル経由にとどめる予定で、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)レベルで統合するのは国産のフリーソフトに絞っていくという。国内には、研究者が自作した優れたプログラムが多く、そのアルゴリズムが海外の著名なソフトに搭載された例もある。しかし、国内ではそれを製品化する受け皿がなく、自作プログラム特有の使いにくさという問題を抱えたままだったのが現状。今回は、それらをまとめてMolWorks上で統合していこうというわけだ。

 現在、豊橋技術科学大学の後藤仁志助教授らのグループで開発されている配座探索プログラム「CONFLEX」、九州工業大学の柏木浩教授らのグループが開発しているたん白質全電子計算プログラムをはじめ、名古屋大学の長岡正隆助教授らのMD/MOハイブリッドプログラム、埼玉大学の時田澄男教授らのPPP法プログラムなどの統合化作業が進行している。ベストシステムズ側でインターフェースのつくり込みを行っているもので、国産CCSの振興・普及にも寄与すると考えられることから、その成果が注目される。

 一方、物性推算機能は分子構造を部分分割し、原子団寄与法と対応状態原理に基づいて計算、各種の物性値を導き出すというもの。使用している物性推算式は一般的なものだが、独自のニューラルネットワークを使ってパラメーターを最適化しているので、精度が1−2ケタ倍向上しているという。分子構造から沸点、融点、蒸気圧、密度、年度、熱伝導度、比熱、臨界温度、臨界圧力、臨界体積などの基本的な物性を予測することが可能。対象は有機化合物で、バージョン1.5ではlogPなど予測できる物性値をさらに広げていく。また、逆に欲しい物性の範囲を入力すると、それにかなった分子の化学式を出力するリバース機能も追加する。

 さらに、ニューラルネットを物性推算機能に本格的に統合することや、ユーザーからのニューラルネットの学習委託やコンサルティングなどにも応じていく。このニューラルネットは、お茶の水女子大学で開発されたプログラムがベースになっており、最新の学習理論のハイブリッド手法などをサポートして2002年の3月に商品化する予定。ただ、スペクトル予測などはニューラルネットでは時間がかかるため、それには遺伝的アルゴリズム(GA)を利用するなど、いろいろな方法を柔軟に組み合わせていく考えだ。

 データベース(DB)についても、2002年3月の発売を目指している。複合的な情報を関連づけて蓄積したもので、例えば何らかの分子について計算をしようという場合、まずDB内に実験値があれば計算をせずにそれを持ってくる。実験値がなくても以前の計算結果がみつかればそれを利用。完全に新規な時に初めて計算を実行し、その結果をあらためてDBに収めておくという使い方ができるようにする。DBの中身のデータをある程度そろえた形で商品化する計画だ。

 MolWorksは研究者が電卓感覚で使えるツールを目指しているため、安価で提供することを前提にしており、現バージョンの価格は民間向け1万5,000円、アカデミック1万円となっている。今後、どれだけ機能が追加されても50万円(アカデミック5万円、学生向け9,800円)を超えないようにするという。

 システム全体がJavaで開発されているため、Javaバーチャルマシン(VM)が存在する環境であれば、どんなコンピューター上でも動作する。検証済みのものとしてウィンドウズ98/2000/NT、マッキントッシュ(MacOS8.1以降)、Linux(レッドハット6.0以降)をサポートしているほか、将来ふさわしい機能はPDAや携帯電話からも利用できるようにしたいという。

 販売は、30日間トライアルCD-ROMの配布またはインターネットサイト(http://www.MolWorks.com/)からのダウンロードで行っている。マニュアルとヘルプファイルは日本語と英語を用意して海外からの注文も受け付けており、クレジットカードでの決済が可能。現在までに15本の正規登録ユーザーがいるほか、100本以上がダウンロードされたという。