米ケンブリッジソフトが企業向けビジネスに力点

ChemOfficeウェブサーバーでエンタープライズソリューション

 2001.06.30−化学構造式作図ツール「ChemDraw」で有名な米ケンブリッジソフト社は、エンタープライズソリューション分野に重点を移し、売り上げ規模を現在の約3倍増の4,000万ドルに引き上げる事業計画を明らかにした。ウェブベースの統合ケムインフォマティクスシステム「ChemOfficeウェブサーバー」を中心に、化学・医薬の研究開発を支援するソリューション製品を提供していく。ケムインフォ市場では米MDLの「ISIS」が圧倒的なシェアを持つといわれるが、ジボダンやP&G、イーライリリー、ファイザーなどの導入事例が出てきており、国内市場を担当する富士通でも今後強力な販売活動を展開することにしている。

 ケンブリッジソフトは化学者向けデスクトップソフトウエアのトップベンダーで、いまや定番のChemDrawは全世界で25万人の化学者が愛用するベストセラー。社員数は約50名で、そのうち30名がエンジニアである。2001年の売り上げは約1,400万ドルで、地域別の売り上げ比率は米国60%、欧州20%、日本20%となっている。

 同社では、今後は企業向けの市場に力を入れ、単なる研究者向けツールの提供にとどまらず、研究開発のワークプロセスを幅広く支援するソリューション開発に力を入れていく方針。2001年の売り上げの内訳はデスクトップ製品が700万ドル、エンタープライズソリューションが400万ドル、企業向けのカスタムプログラム開発やソリューション構築を中心とするインフラストラクチャー事業が200万ドル、eコマース事業が100万ドル。これに対し、2002年はそれぞれ900万ドル、800万ドル、400万ドル、200万ドルの合計2,300万ドル、2003年になると同じく1,200万ドル、1,900万ドル、600万ドル、300万ドルと伸び、合計では4,000万ドルの売り上げ規模に達する計画だ。なかでも最も大きく伸ばすのがエンタープライズソリューションで、3年間で4.75倍に拡大することになる。

 このエンタープライズソリューションは、ChemOfficeウェブサーバーを利用したケムインフォマティクスのアプリケーションとして実現されるもので、同社ではナレッジマネジメント、研究開発支援システム、eコマース/ネット購買−の3分野に位置付けて製品開発を進めている。

 具体的には、ナレッジマネジメントでは電子ノートブック、ドキュメント管理、化学データベース(DB)検索、研究開発支援では化学DB登録システム、生物学的アッセイデータ管理、研究所統合情報管理システム(LIMS)、eコマースでは試薬DBのChemACXを利用したネット購買、試薬在庫管理システムなどを提供していく。

 ケムインフォのインフラとなるシステムはChemOfficeウェブサーバーだが、実際のデータはすべてオラクル上で登録・管理される。ChemOfficeウェブサーバーのエンタープライズ版はウィンドウズNT/2000とOracle8iのプラットホーム上で動作し、ウェブブラウザーを介してデータの登録や閲覧を簡単に行うことができる。ブラウザーにChemDrawのプラグインを組み込めば、ブラウザー上で構造式を作図し、それを検索やデータ登録に使用することができる。オラクルの開発環境を活用することで、さまざまなユーザーアプリケーションを構築することが可能。

 また、企業向けデスクトップソリューションとしては、まず電子ノートブックの「E-Labノートブック」があげられる。パーソナル版はすでにChemOfficeウルトラにバンドルされているが、ネットワークに対応したエンタープライズ版も用意している。これは、研究者がプロジェクト単位でさまざまな情報を共有しながら効率的に日常業務を行うためのツールで、DBから検索した構造式や反応スキーム、各種の物性計算、ドキュメント作成・表示などのスペースを自由にデザインすることができる。クライアント側は大ユーザーをサポートする時はオラクルで、5−10ユーザー程度の小規模グループではマイクロソフトアクセスを利用して開発することが可能だ。

 「ドキュメントマネジャー」は、オラクル上に蓄えられた各種ドキュメントをウェブブラウザーから検索したり、新しいドキュメントをブラウザー経由で登録したりする機能を提供する。やはりChemDrawを組み込むことができ、キーワード検索だけでなく、特定の部分構造を含んだ文書を探し出すといったことも容易に行える。

 「BioAssayマネジャー」はローからミドルスループットスクリーニングに対応したアッセイデータ管理システムで、ユーザーが自由に定義できる柔軟さが特徴。データはオラクルで管理されるが、エクセルとも緊密に連携しており、データの解析やレポート作成も簡単に行うことができる。

 一方、ChemOfficeウェブサーバーはオラクルやSAPと統合され、アリバやコマースワンと連携することにより、eコマースのプラットホームとしての機能も実現する。一例として、ChemACXのウェブサイトを利用して試薬の発注・購買が可能となっている。ほしい試薬を物質名やメーカー名、物性や部分構造で検索し、そのまま発注することが可能。ただ、これは現時点では日本などからの注文は考慮されていない。

 さて、実際のユーザー事例だが、ロシュから独立した香料大手のジボダンはケムインフォのプラットホームをMDLのISISからChemOfficeウェブサーバーに更新した。既存システムはワークフローと統合されておらず人手を介する部分が多かったことや、新しいテーブルを作成したりフィールドを追加したりすることが難しかったこと、また基幹DBが扱いにくいなどの問題を抱えていたという。ジボダンではOracle8iとインターネット/イントラネットを基盤にしてChemOfficeウェブサーバーを導入。ChemACXによる試薬管理・発注システムも組み込んだ。

 システムはジーオンを2個搭載したIAサーバー(主記憶容量1ギガバイト)上に構築され、外部記憶装置にはファイバーチャネルで接続するSAN(ストレージエリアネットワーク)型のディスクアレイを採用した。サーバーは本社のあるジュネーブに置かれ、フレグランスの研究拠点であるチューリッヒ、フレーバーの拠点であるシンシナチ(米オハイオ州)、テストセンターのあるシンガポールなど全世界からのアクセスを可能にしている。

 1台のIAサーバーですべてのアプリケーションを処理しており、世界からのアクセスでもリアルタイムで十分な性能を発揮しているようだ。システムは今年の1月から実際に稼働中だという。

 そのほかのChemOfficeウェブサーバーの導入事例では、米P&G(ChemACXによる試薬調達)、米アレイバイオファーマ(電子ノートと試薬調達、ドキュメント管理)、田辺製薬の米子会社(アッセイ管理と試薬調達)、米イーライリリー(電子ノート)、米ファイザー(カスタムアプリケーションとドキュメント管理)などがある。

 ケンブリッジソフトの国内パートナーの1社である富士通は、こうした海外での実績をテコに、国内の企業ユーザーに対する提案活動を本格化させる。とりわけ富士通はケムインフォの代表的製品であるMDLの国内代理店として1990年代半ばまで10年以上活動してきた実績があり、それらの経験を踏まえて新規ユーザーの獲得のみならず、MDLユーザーのリプレースにも力を入れていく考えである。