ベストシステムズがQ-Chem/HyperChemの販売権を取得

アジア市場にらんで事業拡大、KGTのユーザー引き継ぐ

 2002.06.15−ベストシステムズは、分子モデリングシステムで米キューケムおよび加ハイパーキューブと販売代理店契約を締結した。技術サポートのための体制も国内に整え、計算化学のユーザーニーズを掘り起こしていく。日本だけでなく、アジア全体もにらんだ戦略を立てており、韓国や台湾、シンガポール、中国などに対するビジネスも積極的に進める計画。同社はもともとPCクラスター構築などを得意とするベンチャー企業であり、それらと合わせたシステム提案にも力を入れる。

 今回同社が販売するのは、キューケムの非経験的分子軌道法ソフトウエア「Q-Chem」(商品名)と、ハイパーキューブのウィンドウズ版汎用分子モデリングシステム「HyperChem」(同)の2つ。どちらも、昨年までケイ・ジー・ティー(KGT)が販売権を持っていた製品だが、KGTは昨年末をもってコンピューターケミストリーシステム(CCS)事業から完全撤退しており、この半年間は日本市場は空白状態だった。ベストシステムズはKGTの既存ユーザーをそっくり引き継ぐ形で事業を開始することになる。

 とくに今回、Q-Chemに関してはアジア市場全体での販売権を取得した。すでに複数の引き合いが来ている中国とシンガポールに関しては日本に専任担当者を置いてカバーし、市場規模が大きい韓国と台湾には現地代理店を設ける予定。すでにいくつかの企業と話しが進んでいるようだ。

 Q-Chemは、この分野の定番であるGAUSSIANに対抗して開発されたソフトで、大きな系を扱える高速性が最大の特徴。最新版の2.02はLinuxクラスターをサポートしており、同社ではプログラムの移植や最適化の面で開発元と緊密な協力体制をとっていく。米国にパートナーのリナックスネットワークス社があり、そこにベストシステムズ側ですべてのPCサーバーやLinuxディストリビューションとの組み合わせをテストできるポーティングラボを設置、キューケム社のスタッフが自由に作業できるように準備を整えた。

 Linuxクラスターの構築は同社の主要ビジネスであり、Q-Chemがクラスターに高度最適化されれば、事業面での相乗効果が期待できるというわけだ。

 クラスター版のソフト価格は、16ノードまでで204万円(教育機関41万円)、32ノードまで340万円(同68万円)、48ノードまで435万円(同87万円)、49ノード以上が517万円(同104万円)。もちろん、GAUSSIANのクラスター版よりも低い価格を設定しているという。

 一方、HyperChemに関しては国内だけの販売契約だが、将来的には同様にアジア全体を担当していきたい考え。これは、低分子からたん白質までを扱える汎用的な分子モデリングソフトで、計算機能も分子力場法、分子動力学法、分子軌道法、モンテカルロ法など一通りのものがそろっている。

 最新版はリリース7で、密度汎関数法(DFT)のサポートや、NMRスペクトル予測機能などが追加された。価格は41万円(教育機関28万円)で、リリース6からのアップグレードは13万円(同9万円)。また、最近では教育用途に需要が多いため、高専を含む高等学校向け価格を導入する予定だという。 HyperChemに関してはKGT時代もネット販売形式での提供も行われており、ベストシステムズとしても科学技術系パッケージに強いオンラインサイトとの提携を検討していく。

 なお、CCSから撤退したKGTだが、同社は前身のクボタコンピュータ時代の1988年からCCS製品を扱った国内で最も古いベンダーの1社だった。米バイオデザイン(アクセルリスの前身の1社)のソフトを、自社のグラフィックスーパーコンピューター「TITAN」に載せて販売したのがはじまりで、1991年5月には伊藤忠テクノサイエンスから独立したCTCラボラトリーシステムズ(1989年10月)に次いで国内2番目となるCCS専業ベンダー「シミュレーションテクノロジー」(STI)を設立するなど、国内CCS市場の黎明期をリードしてきた存在だった。

 1994年からはクボタコンピュータのハードウエア事業撤退によって、KGT(クボタグラフィックステクノロジーズ)に再編されてCCS事業を継続してきていたが、昨年6月に米アクセルリス発足にともなう代理店網再編に関連して、主力だったアクセルリス製品の販売を中止。年末には残るキューケムやハイパーキューブ製品の販売からも手を引き、事実上CCSから完全撤退することになった。これまで、完全に撤退してしまった事例としては、1995年の東レシステムセンター、1998年の長瀬産業と旭化成情報システム、2000年のソニー・テクトロニクスなどの例がある。