富士ゼロックスがたん白質MD計算専用のクラスターシステム

JSTプロジェクトから受注、立体構造予測に使用

 2002.04.05−富士ゼロックスは4日、分子動力学法(MD)を利用したたん白質解析のための高速クラスターシステムを科学技術振興事業団(JST)のプロジェクト向けに納入したと発表した。MD計算を高速に実行する専用計算ボード「MDエンジンII」(商品名)を合計128枚装着したLinuxクラスターシステムで、総計算能力は640ギガFLOPS(毎秒6,400億回の浮動小数点演算を実行)に達する。同社では、今回の実績を機にバイオ分野でのクラスタービジネスを本格的に展開していく計画。

 今回受注したのは、JSTのバイオインフォマティクス推進センターが2001年度に募集し採択した研究課題の1つである「高速計算機システムによるたん白質フォールディングの研究」プロジェクト(代表者・肥後順一東京薬科大学生命科学部教授)で、これはペプチドの立体構造解析のための並列型専用計算機システムと並列化アルゴリズムを開発し、水分子存在下でのたん白質フォールディング計算を行うことを目的としている。また、分子会合、たん白質機能などの計算アルゴリズムを用いた手法を確立することも目指している。

 たん白質の立体構造を解明するためにはさまざまな方法が試みられているが、MD計算で構造をシミュレーションする方法はたん白質を構成する原子数の2乗に比例して計算時間が増大するため、非常に大規模な計算能力を必要とする。富士ゼロックスは、1992年からMD計算を高速化する専用プロセッサーの研究開発を進めてきており、昨年8月にパソコンのPCIバスに装着できるMDエンジンIIを製品化している。

 今回、プロジェクト向けに納入したクラスターシステムは、32台の計算ノードがラックマウントされたシステムで、各ノードには1ギガバイトのメモリーとペンティアム4 Xeon(2GHz)が2個、MDエンジンIIが4枚実装されている。1枚のMDエンジンIIには4個の専用プロセッサーが搭載されており、各ノードの計算能力は20ギガFLOPS相当となる。ただ、MDエンジンIIはMD法を実行するうえでのさまざまな機能をハードウエアで実現しているため、MD計算を走らせた時のシステム全体のスループットはFLOPS値を超えた速さを発揮するという。

 また、各ノード間は2Gbpsの高速データ転送システム「Myrinet」(ミリネット)で接続されているほか、MDエンジンIIの高密度実装にともなう発熱対策を強化するなど、クラスターシステムの製作には同社独自のノウハウが注ぎ込まれている。システムの設置場所は同プロジェクトの拠点でもある大正製薬総合研究所で、ここはMDエンジンII自体の開発パートナーでもある。

 同社では、今回のシステムの特徴として、テラFLOPSに迫るピーク性能を持ちながら、19インチラック4台分のコンパクトさ、空冷での運用が可能な最大13.5KVAの低消費電力、初期コスト1億円のコストパフォーマンスの良さなどをあげている。最近、バイオインフォマティクス市場ではクラスターシステムの需要が急拡大しており、同社としてはMDエンジンIIを武器にして本格的にクラスタービジネスに参入していく考えだ。