NECが日本化薬と共同で創薬支援システムを開発へ

新規抗がん剤開発目指し共同研究、ドッキングシミュレーションを実現

 2002.07.16−NECと日本化薬は15日、新しい抗がん剤の開発を目標にした共同研究を開始したと発表した。がんに関係のあるたん白質を明らかにし、その標的分子に特異的に働く医薬品を設計するための創薬支援システムを共同で開発する。システムは、たん白質と薬物分子とのドッキングスタディをハイスループットで行うことを中心にしたものだとみられ、2年後をめどに完成させる予定。

 現在の抗がん剤は、毒性の強い化合物によってがん細胞を死滅させる仕組みであり、正常組織に対する副作用が大きいことが課題だとされている。しかし、がんに関係する生体分子(標的たん白質)を特定し、それを狙い撃ちする医薬品が開発できれば、効果が高く副作用の小さい画期的新薬につながるものと期待されており、実際に世界中の製薬会社でそうした研究が活発化している。

 今回のNECと日本化薬との共同研究は、それぞれのノウハウと研究成果を持ち寄って、国産技術での創薬支援システムを開発しようという試み。具体的には、標的たん白質を特定しその分子構造を決定(日本化薬)、そのたん白質の活性部位に選択的に働く分子構造を持つ医薬候補化合物をドッキングシミュレーションによって探索し(両社共同)、実験系を構築して実際に候補化合物を評価する(日本化薬)−という流れになる。

 中心となるドッキングシミュレーションでは、標的たん白質の構造に対し、数10万件の化合物ライブラリーを当てはめてインシリコでバーチャルスクリーニングを実施し、数100件程度の候補化合物群を得る予定だという。たん白質のどの部分にどのように薬物分子が結合するのかというドッキング予測、またその結合がどの程度の強さであるのかというアフィニティ予測を実現させる。

 NECラボラトリーズ(NECグループの研究部門)では、以前からたん白質と低分子化合物との相互作用に関する高精度で高速なシミュレーション技術の研究開発を進めてきており、その成果を応用して今回のシステムを開発していく。共同研究を通してシステムの有用性が実証されれば、商品化につなげるなど、創薬支援事業のコア技術として活用を図る計画である。

 一方の日本化薬は、今回のシステムを今後の創薬研究のためのIT(情報技術)基盤として位置づけて活用を図っていく予定。

 ドッキングシミュレーションは、コンピューターケミストリーシステム(CCS)の中でも比較的古くからの技術だが、最近になってたん白質の構造解明が急ピッチで進んでいることもあって、あらためて注目を集めはじめている。すでに、海外の大手ベンダーからパッケージソフトも発売されているが、アルゴリズムもさまざまで決定版と言えるものはまだまだ少なく、今回のシステムがどの程度の精度を実現できるかが興味深い。