2003年度のMDL日本ユーザー会が大阪で開催

ディスカバリーゲート、発がん性予測ソフトなど新製品を発表

 2003.09.22−2003年度のMDL日本ユーザー会が、9月10日と11日の両日、大阪・中之島の大阪府立国際会議場において開催された。初日の冒頭に米MDLインフォメーションシステムズのラーズ・バーフォド上級副社長が「新薬開発におけるITの貢献」と題して基調講演を行い、同社の最新の製品戦略などについて解説した。とくに、業界標準対応の統合フレームワークとしての「MDL Isentris」(アイセントリス)、データベース(DB)の統合化によって情報検索に革新をもたらす「DiscoveryGate」(ディスカバリーゲート)、米食品医薬品局(FDA)との共同プロジェクトで開発した医薬品の発がん性予測ツール「MDL QSAR Carcinogenicityモジュール」の紹介などが注目された。

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 バーフォド上級副社長はまずMDL社の近況に触れ、日本法人の順調な発展に対してユーザーに感謝を述べた。日本法人は東京を本社に、大阪に支社を持ち、社員数も2001年は5名以下だったのが、昨年に10名を越え、今年は25名の規模に達すると説明。今後はサイエンティフィックサポートやカスタマーサポートを充実させていくと約束した。MDL全体としては、世界16ヵ所に500名の社員がおり、そのうちの250名がソフトおよびDBの開発に従事しているという。また、通常の拠点とは別にロシアに80名の開発部隊がいるようだ。導入実績は1,500サイトを超えている。

 その後、バーフォド上級副社長は、開発コストの増大が問題になっているなどの新薬開発をめぐる情勢を概括してからMDLの製品紹介に話しを移し、まずは「アイセントリス」を取り上げた。これは、ウェブベースの三層アーキテクチャーに基づいたアプリケーションフレームワークで、「創薬研究分野に特有の機能をあらかじめ備えた唯一の開発者用フレームワークである」と位置づけられる。3階層モデルのうち、データベース層はオラクルやISIS、クロスファイアーなどを介して多数のDBコンテンツ群を蓄積・管理することができる。ミドル層は、IBMのWebSphere(ウェブスフィア)やBEAのWebLogic(ウェブロジック)、オラクルのOracle9iASのような標準的なJ2EE対応のアプリケーションサーバーが利用可能。そこにMDLのアプリケーション群とのインターフェースをビルトインされた形の構成となる。

 ここで、バーフォド上級副社長は3番目のアプリケーション/ユーザー層向けに新しい開発ツールである「MDL Base」を来年に提供する計画を明らかにした。これは、アプリケーション統合のツールでもあり、高度にカスタマイズされたポータル的なクライアントを簡単に作成することが可能になるようだ。ITの業界標準技術を基盤とすることで、ユーザーアプリケーション開発の自由度が格段に増すと考えられ、今後の詳細な情報が待たれるところだ。

 次に紹介されたのが「ディスカバリーゲート」。通常は探したいDBを指定して、その専用クライアントから検索などをかける必要があったが、ディスカバリーゲートでは1回のログオンと1回の検索で多数のDBを横断的に検索することができる。MDL向けの17種類のDBに加えて、ISI/ダウエント/カレントドラッグスなどのサードパーティーコンテンツにも一元的にアクセスできることが特徴。検索可能な情報量は、1,200万種類以上の化合物情報、2億5,000万件以上の関連情報におよぶ。

 実際にはインターネット上のサービスで、利用者は専用サイト(http://www.discoverygate.com)にアクセスして利用する。ここにログインすると「Compound Locator」、「Database Browser」、「LitLink Direct」、「Integrated Major Reference Works」の4つのメニューを利用できる。一度に全コンテンツを横断的に検索できるのが「Compound Locator」で、いわば化学者にとっての“Google”だという。

 具体的には、化学構造式あるいは毒性・代謝・環境・製法・薬効・入手性などの検索項目を利用して欲しい情報を集めることができる。「Compound Locator」ではまずサマリー情報がヒットするので、そこから各DB内の詳細情報に飛び、さらに元論文や関連文献を「LitLink Direct」で読んだり、詳しい知識を「Integrated Major Reference Works」から得たりすることが可能。複数の種類のコンテンツ内を自由に行き来できるのもディスカバリーゲートの大きな特徴である。

 「Database Browser」は各コンテンツに共通の検索・閲覧機能で、同一の画面と操作ですべてのDBを扱えるため、利用者はそれぞれのDBの使い方を覚える負担から解放される。

 バーフォド上級副社長によると、すでに100の企業や団体がディスカバリーゲートを利用しており、検索にかかる時間を75%節約したなどの事例も出てきているという。また、いままでの方法では入手できなかった情報に到達できたという報告もあったようだ。ISISを導入していなかった新規ユーザーが利用するケースがむしろ多いようで、サーバーを導入したり管理したりする負担がないため、コストメリットを感じているユーザーも少なくない。

 日本MDLでは、国内でもこのディスカバリーゲートを積極的に紹介していく計画。ログインするためにユーザーIDとパスワードが必要になるため、ライセンスは指名ユーザー制で、費用は基本的な各コンテンツ利用料に若干の上乗せをしたレベルになるようだ。

 現在のディスカバリーゲートはインターネット経由のサービスだが、将来的にはISISやオラクルなどで管理している社内データにも同様にアクセスできるようにする仕組みを組み込む計画。1回のクエリーで社内とインターネット上の両方のデータを横断的に検索することができる。こちらの提供次期はまだ未定だという。

 さて、バーフォド上級副社長は講演の最後でFDAとの共同プロジェクトについて説明した。過去2年間にわたって実施してきたもので、新たに5年間の延長契約が結ばれたばかりのものだという。目標は、新薬開発の研究者や当局の審査員が利用できる毒性学的エンドポイントのインシリコ予測手法を開発すること。まずは、発がん性に的を絞って開発が行われた。約1,300化合物のトレーニングセットを用いて予測式がモデル化されており、FDAが実際の約100種類の化合物の発がん性試験で予測モデルのバリデーションを行ったところ、「リスクの高い化合物で91%の感度、リスクの低い化合物で94%の特異度の結果を出した」という。(写真参照)

 FDAは、申請された新薬に関して発がん性テストの再度実施を要求するかどうかの判断をする際に、このシステムの予測結果を参考にしている。FDAとMDLは、今後5年間のプロジェクトのなかで人体に対する副作用として心臓血管エンドポイントと肝毒性、さらに発生毒性や変異原性などに関するデータを集め、予測システムを開発していく。

 今回、MDLではこれを「MDL QSAR Carcinogenicityモジュール」として外販する。今後の共同プロジェクトでのデータが順次反映されるのが特徴で、利用料金はコーポレートライセンスで年間3,500万円となっている。バーフォド上級副社長は、製薬会社がこのシステムを利用すると、申請後にFDAから追加試験を求められる可能性が25%から9%に減少するほか、新薬承認の受理確率の向上、臨床試験に持ち込む前に不適切な化合物を検出できることで1件当たり8,000万ドルのコスト削減につながる可能性があると論じた。