富士通が材料設計CCS「Materials Explorer」を機能強化

MD計算の使い勝手を向上、初心者向けモードを搭載

 2003.12.19−富士通は、半導体やナノテクノロジーなどの材料研究に役立つコンピューターケミストリーシステム(CCS)を機能強化し、「Materials Explorer 3.0」(マテリアルズエクスプローラー)として25日から販売開始する。分子動力学法(MD)に基づいて材料物性をシミュレーションすることができ、材料のバルク状態から表面・界面までを原子・分子レベルで解析することが可能。MDは使いこなすために独特のノウハウが必要で、敷居が高い計算理論だといわれていたが、今回の最新版では初心者でもMDシミュレーションが実行できるように操作性などが大幅に改善されている。Windowsで利用でき、ソフト価格はマスター版で120万円。2年間で2億円の売り上げを見込んでいる。

 マテリアルズエクスプローラーは、これまで「WinMASPHYC」の名前で販売されてきた製品を改称したもの。海外では以前からこの商品名で販売されており、今回は名称を世界全体で統一したことになる。UNIX版が1992年から、Windows版で1998年からの歴史のあるソフトで、Windows版として1,000本以上の販売実績を持っている。

 MDは、計算化学理論の中でも使い手を選ぶといわれており、初期構造が悪いと計算が進まなかったり、パラメーター設定が適当でないと計算自体がスタートしなかったりするなど、初心者が気軽に利用することは難しかったという。

 今回の最新版は、とくに使いやすさに重点が置かれており、詳細なヘルプやチュートリアルも含めて完全な日本語化を実現したほか、初心者向けの「標準モード」と上級者向けの「エキスパートモード」を切り替えて利用できるようになった。標準モードでは、ウィザードによるガイドに従って操作することでデータの作成から計算の実行までを簡単に行うことが可能。各ステップで詳しい説明文が表示されるので非常にわかりやすい。

 また、MD計算では計算対象に則した時間刻みや熱浴の仮想質量係数などの専門的なパラメーター設定が必要だが、自動的に適当なパラメーターを見積もってくれる機能が搭載された。さらに、計算中の各種物理量の変化をリアルタイムにモニターできるようになったため、計算の異常が早期に発見でき、長時間の計算がムダになるという事態が起こりにくくなっている。

 計算のための初期構造を効率良く作成することも考慮されており、従来の結晶ビルダーなどに加えて、分子を組み立てたり原子の電荷を決定したりするツールが新たに追加されている。分子集合体の初期状態を最適化(自動ランダム配置)する「近接原子・分子の構造緩和機能」も装備されており、スムーズな計算の開始が可能になった。

 計算対象としては、多彩なポテンシャル関数とポテンシャルパラメーターライブラリーを備えており、金属からたん白質までさまざまな物質の固体・液体・気体の各状態をシミュレーションすることができる。

 製品体系は、入門用のスタンダード版(一般10万円、教育機関5万円)、解析機能を備えたプロフェッショナル版(60万円、30万円)、弾性定数や速度自己相関関数などの高度な解析機能を持つマスター版(120万円、60万円)、外場(電場・磁場など)や結晶成長、表面吸着などの高度な機能を備えたウルトラ版(240万円、90万円)に分かれている。差額で上位版への移行も可能。

Materials Explorer 3.0 機能比較

   スタンダード版 プロフェッショナル版 マスター版 ウルトラ版
モデリング MDセルの作成・積み重ね MDセルの貼り合わせ、原子・分子の挿入、原子・分子のコピー、モンテカルロ法による構造緩和 原子の属性変更、ダミー元素の使用 原子・分子の発生(結晶成長、表面吸着、表面損傷)
計算 分子動力学シミュレーター、外場(応力) サーバーマネジャー(ネットワーク連携機能) バッチ計算実行、データの事前チェック 構造緩和、設定値見積もり、外場(電場、磁場、重力場、球内拘束場)
結果表示、二次解析 原子配置、モニター変数 平均二乗変異、ニ体相関関数、X線・中性子線回折干渉関数、ボロノイ多面体解析、分子内座標解析 弾性定数、速度自己相関関数   
各種ツール ファルコンバーター 結晶ビルダー(空間群展開)、ポテンシャルパラメーターエディター ポテンシャルライブラリーデザイナー、分子モデリングツール、QEq(電荷平衡法)、pdb2bdl(PDB変換ツール)   
ポテンシャル       Grujicic-Zhou、MEAM、GEAM、Ackland、Justo、Marks   
        (上位版は下位バージョンの機能を含む)