富士通が国産初の合成経路設計支援システム

豊橋技科大・船津助教授らのAIPHOS/KOSPを製品化、KBを自動構築

 2004.02.09−富士通は、豊橋技術科学大学の船津公人助教授からライセンスを受け、国産初の合成経路設計支援システムを「AIPHOS/KOSP」(商品名)を製品化した。Windowsに移植し、ウェブ環境で利用できるように改良されており、25日から出荷開始する。独自の知識ベース(KB)を利用し、任意の有機化合物の合成経路を“逆合成”の考え方に基づいて割り出すことができる。得られる経路の新規性と現実性とのバランスに優れており、既存の反応情報データベース(DB)から自動的に知識を抽出できるため、KB構築に時間がかからないことも特徴になっている。2年間で国内100セットの販売を見込んでいる。

 富士通が製品化したAIPHOS/KOSPは、船津助教授らの研究グループが1985年ごろからスタートさせたAIPHOSプロジェクトをベースにしたもの。AIPHOS自体は、1994年4月までの5年間にわたった関西化学工業協会傘下の20社との共同研究プロジェクトを経て、世界でも最も実用化が進んだ有機合成経路設計支援システムとして、その原型の開発に成功しており、現在も研究組合が引き続き組織され、開発が継続されている。

 その後、研究グループはAIPHOSを補完するファミリーとして、専門の研究者以外にも使いやすく間口を広げる形で1997年にTOSP(Transform-Oriented Synthesis Planning)を、1998年にKOSP(Knowledgebase-Oriented Synthesis Planning)を完成させている。富士通は製品化に当たって研究組合の各社にインタビューを行ったが、その結果、KOSPを製品化してほしいという要望が最も多かったのだという。

 そこで、富士通は船津助教授からKOSPのライセンスを受け、Linux版だったプログラムをWindowsに移植、ウェブアーキテクチャーに対応させてブラウザーで利用できるようにユーザーインターフェースを刷新した。使いやすくなったことで、ユーザー層の拡大が期待される。

 とくに、合成したい標的化合物の構造式を与えるだけで自動的に合成経路を導き出すことができるため、誰にでも簡単に利用することが可能。標的構造から合成前躯体を導く際の着目点である戦略部位をKBを使って自動的に認識し、脱離基の付与や実現性の評価を加えて、候補となる前躯体を提案してくれる。この時、マッチングレベルを5段階に設定することができるので、候補が多すぎる時にレベルを上げて厳選された前躯体だけをピックアップしたり、逆にレベルを下げて中心部分の骨格構造が大きく変化するような創造性のある前躯体を選び出したりすることが可能。

 提案された反応スキームに関する事実情報もKB内に格納されているので、反応条件や文献情報を即座に参照することもできる。

 合成経路予測の基盤となるKBは、反応DBから抽出される知識をもとにしており、ユーザーは何らかの反応DBを別途用意する必要がある。 AIPHOS/KOSPには、RDファイル形式で反応DBからKBを誘導するためのツールセットが用意されているので、社内に独自の反応DBが蓄積されていれば、それを利用することも可能である。ただ、市販の反応DBからKBを構築する場合には、各DBの提供元にそのような使い方の許可を得る必要があるということだ。

 もとになる反応DBのデータ件数は多ければ良いというものではなく、調べたい化合物の系統に合っているかどうかが重要だという。DBには、化学反応にかかわる構造情報が含まれていればいい。1つのDBからは1つのKBが生成され、複数のKBを結合・合体させることはできない。経路の予測時にどのKBを使用するかを指定することになる。ただ、次期バージョンでは、複数のKBを串刺し利用できる機能を盛り込む予定である。

 なお、サーバー側の動作環境は、Windows2000/XP、JDK1.4.1、アパッチ・トムキャット4.1.12、PostgreSQLなどが必要。処理が重いのでマシンスペックは高い方が望ましい。クライアント側に必要なのはウェブブラウザーだけ。ソフト価格は、同時接続のユーザー数で、1クライアント200万円、5クライアント300万円、10クライアント500万円、無制限クライアント800万円となっている。KBの構築サービスやカスタマイズサービスなども用意されている。

 AIPHOSファミリーは、合成経路設計支援システムとして、国内のみならず海外でも知名度の高いシステムであり、市場での反響が注目されるところだ。富士通は、船津助教授と協力関係を保っていく考えを示しているので、今後も安定的にバージョンアップが行われることを期待したい。