NTTデータが創薬研究用グリッドシステムを製品化

アクセルリスのドッキングソフトを搭載、ターンキー型で提供

 2004.06.12−NTTデータは、LANに接続された企業内のパソコンを束ね、グリッドコンピューティング環境を手軽に利用できるターンキー型のシステムとして「Cell Computing BOX」(セルコンピューティングBOX)を開発、たん白質の解析や創薬研究に役立つアプリケーションを搭載して販売を開始した。とくに、米アクセルリスが開発した生体分子と医薬化合物とのドッキングシミュレーションソフトである「LigandFit」(リガンドフィット)を利用できることが特徴。両社は、昨年秋に理化学研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)に対して同様のシステムをすでに提供しており、その経験を生かしてすぐに利用できるシステムに仕上げた。具体的なアプリケーションを搭載したグリッドベースのシステム製品は、ほかにはあまり例がなく、市場での反響が注目される。

 NTTデータは、米ユナイテッドデバイスと技術提携し、その基盤技術を用いて独自のグリッドコンピューティングシステム「セルコンピューティング」を開発した。2002年末から大規模な実証実験や共同研究などを何度か行い、ノウハウを蓄積してきたが、商品として本格的に外販するのは今回の「セルコンピューティングBOX」が初めてになる。グリッド型並列処理に適しており、市場性が期待できるアプリケーションという観点から、バイオ/創薬支援分野を最初のターゲットにしたという。

 また、現在のグリッドはまだまだ研究段階の色彩が濃く、ユーザーにとっては、システムを構築・稼動させるだけでも、専門の技術力やコストなどの面で負担が大きいのが実情。しかし、「セルコンピューティングBOX」はいわば理研GSCでの稼働実績があるわけで、導入即稼働できるターンキー型のシステムとして提供されること自体に大きな意味がある。

 理研GSCでのプロジェクトは、400台のパソコンをグリッドに参加させ、人体を構成するたん白質のうちの約700種類を対象に、合成可能な医薬候補分子2,140種類を網羅的にドッキングさせて、その相互作用を解析した。最適化された「リガンドフィット」を用い、1台のパソコンで27年6ヵ月かかる計算を約6ヵ月間に短縮することができたという。このため、「セルコンピューティング」と「リガンドフィット」との組み合わせは、すでに実証済みだといえる。

 さらに、NTTデータでは、たん白質のモチーフ解析を行う「HMMER」やマルチプルアラインメントプログラム「ClustalW」など、たん白質研究で標準的に利用されているソフトも移植して同時に提供していく。また、9月にはエクセルとの連携機能も用意する予定で、エクセル内から各セルの計算などをグリッドで並列化できるようになる。プログラミングや開発者のサポートなしで、計算式や計算条件を変更して結果を確認するといった利用が可能。

 「セルコンピューティングBOX」では、グリッドに参加する個々のパソコン(Windows)内にあらかじめメンバーソフトをインストールしておき、稼働率の低いパソコンに対して自動的に処理を割り当てる。スクリーンセーバー動作時にメンバーソフトを起動させるほか、完全なバックグラウンドモードでも通常の処理を優先させるように設定されているため、例えば「リガンドフィット」が動作していても利用者はほとんど気づかないということだ。

 「セルコンピューティングBOX」の価格はパソコン100台まで利用できる標準セットで850万円(HMMERを含む)。「リガンドフィット」のライセンスは別で、100台で利用する時には100ライセンスが必要になる。ただし、アクセルリスではグリッド専用の特別ライセンスを用意しており、通常よりは価格を大幅に安く設定して普及を後押ししたい考えである。

 なお、今回の「セルコンピューティングBOX」は企業内LANのイントラネット環境で利用することを前提としているが、NTTデータでは自社の膨大なパソコン資産を生かしたかたちでのグリッド計算受託サービスなど、さまざまな事業形態でセルコンピューティングビジネスを発展させていきたいとしている。