ABINIT-MPバイオステーションが12月にバージョン1を完成

文科省「戦略的基盤ソフト」、たん白質−化学物質相互作用解析グループがリリースへ

 2004.07.27−文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウエアの開発」プロジェクトのたん白質−化学物質相互作用解析グループ(中野達也リーダー、国立医薬品食品衛生研究所)は、医薬候補化合物のドッキングシミュレーションに利用できるソフトウエアを「ABINIT-MPバイオステーション」の名称で開発、12月をめどにバージョン1を完成させ、年度内のプログラム公開を目指す。コアの計算機能のグレードアップとともに、関連データベースや解析・ユーザーインターフェースモジュールなど、周辺部分も形になり始めており、プロジェクトの最終年度である2006年度に向けて実証研究のフェーズに入っていく。

 ABINIT-MPバイオステーションは、たん白質の電子状態を計算できる“フラグメント分子軌道法”(FMO)をベースに、創薬のインシリコスクリーニングに具体的に利用できるように、ドッキングプログラムの「バイオステーションDock」、可視化や解析を行うための対話型GUI「バイオステーションビューアー」、大量データの一括処理などバッチ型のユーザーインターフェース機能を提供する「バイオステーションランチャー」、相互作用解析を助けるファクトデータベース「KiBank」といったソフトウエア群で構成されている。

 コアのFMO計算プログラム「ABINIT-MP」は、MP2法による電子相関を導入したことにより、計算精度が大幅に向上した(別表参照)。巨大分子系でも現実的な時間で扱えることが確認されており、例えば今回公開されたベンチマーク(64ウェイのジーオン3.06GHz、メモリーはプロセッサー当たり2GB)では、1,024個の水分子クラスターで5.7分、129残基のリゾチームと糖鎖3個で6.8時間、121残基のストレプトアビジンとビオチンとの電子密度計算で19時間、198残基のHIVプロテアーゼと抗ウイルス剤とのクラスター解析14.3時間という結果が出ている。

 バイオステーションDockは、数万化合物単位のプレスクリーニングから数百件への詳細スクリーニング、さらに十件程度までのリード候補化合物の絞り込みにまで対応できるドッキング解析プログラム。詳細な結合様式の決定に重点を置いたものになるという。具体的には、生体高分子の分子間相互作用を高精度に予測するために構造に依存した原子電荷を与えるXUFF力場を利用しており、結合状態を探索するアルゴリズムにはレプリカ交換法を採用している。たん白質側に結合部位の情報がない場合には、形状から結合部位を予測する機能も盛り込む。

 KiBankは、たん白質と化学物質との結合親和性の実験値(Ki値)を文献などから収集してデータベース化したもの。標的たん白質として、核内受容体やイオンチャンネル型受容体、代謝調節型受容体、酵素などサブタイプを含めて154種類を収録しており、データ件数は7,600件以上となっている。たん白質の三次元構造情報は、単純なPDBデータではなく、残基や原子の欠損部位の保管、水素原子の付加などを行い、すぐに計算に利用できる状態で提供される。このため、ABINIT-MPで結合エネルギーを計算し、実験値との相関を調べることで新規化合物の結合性を予測するなどの利用も可能。データベース自体はインターネット経由(http://kibank.iis.u-tokyo.ac.jp)で検索するスタイルとなるが、将来的にはパッケージ化して製薬会社などがインハウスで検索できるようにすることも考えているという。

 一方、システムを利用するためのユーザーインターフェースは、「ビューアー」と「ランチャー」の2種類が用意される。すべてJavaとXMLを用いて開発されており、クライアントの種類を選ばないのが特徴。ビューアーの方は対話型のGUI環境で、分子モデルの編集やABINIT-MP計算用の入力ファイル作成機能のほか、計算結果を可視化し解析する機能を持つ。フラグメント間相互作用エネルギーや分子軌道、電子密度、静電ポテンシャル、電場、最適化トラジェクトリーなどのFMO計算結果を美しい分子グラフィックで描き出すことができる。

 また、ランチャーはシステム全体のフロントエンドとして働き、デスクトップ上に常時表示されるツールボックスを介してビューアーの起動やKiBankサイトへのアクセスなどをボタン一つで行うことができる。ここからABINIT-MPバイオステーションの全機能へのアクセスが可能であり、大量データのバッチ処理やプロジェクト単位のデータ管理などが行える。

ABINIT-MP開発予定


資料:戦略的基盤ソフトウエアの開発、第17回ワークショップ

開発項目 2003/12 2004/06 2004/12
基底関数 STO-3G、6-31G STO-3G、6-31G、6-31G*、6-31G**、6-31++G** 同左
エネルギー計算 Hartree-Fock Hartree-Fock、MP2 同左
構造最適化計算 Gradient(近似なし、esp-aoc近似) Gradient(近似なし、esp-aoc近似、esp-ptc近似、dimer-es近似) Gradient(近似なし、esp-aoc近似、esp-ptc近似、dimer-es近似)、MP2 Gradient、部分構造最適化