富士通が“インテグレーテッド・インシリコ創薬”を提案

ADMEWORKS最新版2.0発売機に、創薬プロセス変革を支援

 2005.03.08−富士通は、新薬候補化合物の体内での挙動を予測する「ADMEWORKS」最新版の発売を機に、創薬研究手法を革新する“インテグレーテッド・インシリコ創薬”の提案活動を開始する。候補化合物の探索と化学構造の最適化、薬物動態試験、毒性試験へと通常は逐次的に流れる創薬プロセスを改革し、薬理活性とADME(吸収・分布・代謝・排出)特性、毒性、物性などを同時にシミュレーションで評価することにより、臨床試験に入るまでの期間と費用を大幅に短縮・削減することが可能になる。このために機能強化したADMEWORKS2.0は、3月中旬から月末にかけて正式に提供開始する。

 現在の創薬プロセスは、主に薬理活性や化合物の物性に注目した探索・構造最適化のプロセス、ADME特性を調べる薬物動態試験のプロセス、毒性の有無を調べる毒性試験のプロセスに分かれており、通常は候補化合物が各プロセスを順番に通過することによって、次の臨床試験の段階へと送られることになる。しかし、薬理活性が高くても薬物動態や毒性試験を通過せず、最適化のプロセスに差し戻されるなど、開発のフィードバックが多発するのが実態。既存の薬物はすでにかなり高機能化しており、さらに薬効を高めようとすると毒性や副作用が多くなってくるのが現実であり、画期的新薬の開発はますます困難になってきているのだという。

 富士通が提案する“インテグレーテッド・インシリコ創薬”は、薬理活性/ADME/毒性/物性といった複数の要求項目をシミュレーションによって同時的に評価し、クリアした候補だけを実際に合成して試験にまわすという考え方。シミュレーションが100%当たるとすると、3回のフィードバックが生じた場合の逐次的アプローチに比べて、単純計算で1,600万倍の効率向上になるという。シミュレーション精度が70%としても、効率は3,000倍も向上すると試算している。

 ADMEWORKSは富士通九州システムエンジニアリング(FQS)と共同開発した製品で、現在のバージョン1.0は、毒性関連の予測モデルとして発がん性(ラット)とエイムズ試験(変異原性)モデル、ADME関連でP450予測(CYP3A4)モデル、物理化学特性で溶解性予測モデルを組み込んでいる。

 これに加えて、今回の最新版2.0ではADMEでトランスポーター関連予測モデル、血液脳関門(BBB)予測モデル、ヒト腸管吸収(HIA)予測モデル、環境関連で生分解性予測モデルと生体内蓄積性予測モデルを追加した。このうち、トランスポーター関連モデルは東京工業大学の石川研究室(石川智久教授)およびジーエスプラッツとの共同研究、生体内蓄積性予測モデルは独フランホーファー国立研究機構との共同研究を通して作成した。また、BBBとHIA予測については、化合物の三次元構造情報が必要となる。

 さらに、同社では、毒性関連で染色体異常試験モデル(小核試験モデル)と発がん性予測モデル(動物種の拡大と性別のサポート)、ADMEではP450関連代謝予測モデル、そのほか皮膚感査性予測モデル、皮膚刺激性予測モデルなどを開発中だとしている。 ADMEWORKSは本体250万円だが、これらの予測モデルを利用するには、モデルごとに60万−130万円のオプション料金がかかる。

 一方、ユーザーが自分で予測モデルを構築できるようにするADMEWORKS/モデルビルダー(本体500万円)も、同じくバージョン2.0に機能強化される。ワンクリックで簡単にモデル構築ができる機能が追加されており、データさえそろえておけば、パラメーター発生から特徴抽出、予測モデル創出までの一連の処理作業を全自動で行うことができる。

 同時に、データ解析の専門家向けに新規パラメーターの追加、三次元パラメーターのサポート、特徴抽出関連では遺伝的アルゴリズムや高速多重相関計算、前進選択法などが追加されており、データ解析関連でもFALS(ファジーALS)法、サポートベクターマシン(SVM)、K−最近傍法(KNN)、パラメータークラスタリングが加えられるなど、大幅な機能強化が実施されている。

 同社では、ケタ違いの研究費用を投下できる欧米の巨大製薬会社に国内の製薬産業が対抗していくためには、今回の“インテグレーテッド・インシリコ創薬”手法の導入が不可欠だと訴えていく。