NECが分子動力学法(MD)計算専用サーバーを製品化

1台でPCクラスター340台分の性能、たん白質構造計算が実用域に

 2005.11.30−NECは29日、新薬の研究開発を支援する分子動力学法(MD)計算専用サーバーを製品化し、「Express5800/MDサーバー」の名称できょう30日から出荷を開始すると発表した。新開発のMD専用アクセラレーターボードを搭載しており、通常のPCクラスター340台分の性能を発揮できる。これまでは1ヵ月単位の時間がかかっていた計算を1日で終わらせられるようになるため、仮説検証などの研究のサイクルの点でMD計算が実用域に達したとしている。システム価格は340万円からで、今後3年間に国内で1,000台、海外500台の販売を見込んでいる。

 新製品は、インテルの64ビットジーオン(3.8GHz)デュアル構成のLinux(レッドハット)サーバーに、MD計算専用のアクセラレーターボード「MDエンジン」を3枚搭載した構成で、本体側はタワー型とラックマウント型の2種類が選択できる。ただ、本体側も電源や冷却機構などのチューニングが施されているため、MDエンジン単独での販売は行わない。

 MDエンジン1枚には、専用LSIとしてのプロセッサーが4個搭載されている。MD計算の99%以上を占めるクーロン力や分子間力などの非結合計算を行う回路がハードウエアとして実装されており、圧倒的な高速性能を引き出したことが特徴。基本的な技術は昨年7月(正式発表は10月)に富士ゼロックスから導入したものだが、今回の製品化に当たっては4プロセッサーを制御するシーケンサーの実装やメモリーアクセス機構の改良など、コンピューターメーカーとしてのNECの独自ノウハウが盛り込まれている。

 同社のベンチマークによると、AMBER7を使用し、総粒子数3万762個(たん白質と水分子)のクーロン相互作用カットオフなしの1ナノ秒までの演算時間が約2.7日。同じ計算は通常のPCサーバーでは約2.5年かかる勘定になるので、比較するとMDエンジン3枚でPCサーバーの340台に相当するという。

 MDプログラムとしては、最もポピュラーなAMBERに対応。まず、サーバー内にAMBERをインストールしたあと、MDエンジンに最適化するための専用パッチ(NEC提供)を当て、プログラムをコンパイルし直すという手順になる。専用のライブラリー関数も用意されているため、AMBER以外のMDプログラムを組み込むことも可能。同社では、コンサルティングから導入支援、運用支援まで幅広いサービスを用意して、MD計算を実際の研究に役立てることができるようにサポートする。

 MDシミュレーションを行うためのグラフィック環境としては、自社開発の分子モデリングシステム「MolStudio」のMDサーバー対応版を新たに開発する計画。入力データの作成から計算実行、結果の可視化までを一貫して行えるようにする。

 MDエンジンは、もともとは1992年度からの通産省プロジェクトの成果として開発されたもので、富士ゼロックスでは事業として大きな成功を収めることができなかった。しかし、NECが創薬研究支援ソリューションをハード・ソフト・サービスの広がりで手がける中において、MDエンジンは強力なシナジーを発揮する製品アイテムになり得るという判断があったという。また、最新の半導体技術を反映させることで一段の高速化が達成されており、研究者がシミュレーションの検討を1日単位で行えるようになったことは、普及へのブレークスルーポイントに達したとみることができるとしている。さらに、現時点でナノ秒オーダーまでのMD計算が可能になってきたわけだが、注目を集めているたん白質のリン酸化などはミリ秒オーダーの現象であり、いまよりも1,000倍速い計算機が必要。将来にわたってMDエンジンの改良強化を続けていけば、非常に大きな市場が開けてくるという狙いもある。