米トライポス:ディーター・シュミットベイゼ上級副社長インタビュー

“知識”駆動型創薬研究を支援、DI・DR事業のシナジーで発展

 2006.01.21−米トライポスは、創薬支援を専門とするIT(情報技術)ベンダーで、コンピューターケミストリーシステム(CCS)分野で最も古い企業の一つ。シミュレーションや解析を中心とするドライ系の技術と、実際に化合物を合成したりスクリーニングを行ったりするウェット系の技術の両方を持ち、それを両輪として事業を発展させてきた。今年はそれぞれの分野で新製品展開を本格化させたいとするワールドワイドセールス担当のディーター・シュミットベイゼ上級副社長に事業の現状や今後の戦略を聞いた。

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 − ドライ系とウェット系の両方の事業を手がけるCCSベンダーはほとんどありません。やはりそれがトライポスの最大の強みですね。

 「当社では、ディスカバリーインフォマティクス(DI)事業とディスカバリーリサーチ(DR)事業と呼んでいるが、その相乗効果によって全体のソリューションの価値を高めている。ポイントは“知識”に基づいた創薬を行うことで、DI事業においてはそうした知識をつくり出したり管理したりするためのソフトウエアツールを開発しているし、それらが実際の創薬プロセスを走らせるDR事業のシステム基盤として役立っている」

 − DI事業の現状について教えてください。

 「分子設計のツールとしてコンピューテーショナルインフォマティクスの中核をなすSYBYL、膨大な知識を利用するための情報管理基盤としてのChemCoreといった体系的な製品群を有している。これに加えて、モデリングやインフォマティクスから得られた知識を現場の研究者が自由に活用し、日々のコミュニケーションやデシジョンメイキングに利用できるようにする新しいBenchwareシリーズを開発した」

 「現在、Benchware製品として、ライブラリー作成、データマイニング、ドッキング解析、電子実験ノートブック、グラフィック−の5つのツールを提供しており、今後も拡充していく。今年は、このBenchwareシリーズの成功を強く確信している」

 「また、DI事業の関連では、研究所のITプラットホーム構築など、ユーザーの要望に合わせたシステム構築も請け負っている。サイエンティフィックな観点から研究方法論の開発支援に取り組むこともある。これらのプロジェクトで得たノウハウが、パッケージ開発に反映される場合もある」

 − 最近、他のベンダーではソフト開発拠点をインドなどの海外に移すケースが目立ちます。トライポスでは、オフショア開発を含めたそうした動きについてどのように対応していますか。

 「ソフトの開発は、ずっと米国内で行ってきた。海外に関するいろいろな話しはあるが、いまのところ具体的なプランはない」

 − また、ベンダー間での提携が増えてきたことも最近の傾向です。ここ10年はあまりみられなかったことだと思いますが、CCS業界が変わってきたのでしょうか。

 「現在、エルゼビアMDL、サイテジック、ケンブリッジソフト、インフォセンスなどと提携している。これまでは各社のツールをいっしょに使うことはできなかったわけだが、いまはお互いにツールを提供し合い、連携できるように協力している。そういう意味では、確かに業界は変わってきた」

 − そうした協業関係は長期的なものに発展していくのでしょうか。

 「いや、必ずしもそうとはいえない。特定のツールの互換性をめぐった特殊な目的での協力関係であり、長期的なものになるかどうかはわからない」

 − わかりました。では、一方のDR事業の現状はいかがですか。売り上げの伸びも著しいですね。

 「英国にある子会社のトライポスレセプターリサーチがその拠点となっている。2004年に新しい建物をつくるなど、人員や設備を増強してきた。現在のスタッフは160人ほどで、博士号を取得した化学者が多い。最先端の合成・分析装置を導入しており、ハイスループットのパラレル合成などを得意としているが、伝統的なメディシナルケミストリーの実力も高いと思っている」

 「SYBYLやChemCore、さらに大量のバーチャルライブラリーを作成するためのChemSpaceといった独自技術を活用し、ナレッジ駆動型の創薬研究を実践しており、ヒットの発見から候補化合物の構造最適化まで、さまざまな要求に応えることができる。顧客は大手製薬会社からバイオベンチャーまで幅広いが、最も大きなものではファイザーとの4年間で9,000万ドルのプロジェクトを実施した経験がある」

 − 今後の展開としてどんなことを考えていますか。

 「昨年の半ばから“リードディスカバリー”の名称で新しいパッケージプログラムの提案を開始した。創薬ターゲットを定めて行う受託研究サービスで、いまはGPCR(Gたん白質共役受容体)とキネーゼを対象にしている。顧客の持つ新規性の高い化合物を評価することもできるし、スクリーニングで活性のある化合物が得られた段階で知的財産(IP)としてトランスファーすることも可能。リードオプティマイゼーションまで任せてもらってもいい。今年は、この新しいサービスに力を入れたい」

 − 国内での展開についてはどうでしょう。

 「DI事業と同じく、DR事業もパートナーの住商情報システム(SCS)と協力して進めている。SCSの技術力・サポート力は、DI事業において顧客から高く評価されており、DR事業でもこれからの拡大を期待したい」

 − トライポスは、昨年8月にSCSと合併した住商エレクトロニクス(SSE)と1992年から代理店関係を結んできています。直接、日本法人を設立する予定はないのですか。

 「日本市場においては、SCS(旧SSE)との提携で成功しているので、そのような考えはない。ユーザーも代理店のサービスレベルに満足している。新生SCSは、あらためてわれわれとの連携を強化する意向を示してくれているので、両社の連帯をさらに深めていきたいと思う」