マイクロソフトが科学技術計算HPC市場に新規参入へ

年内にPCクラスター専用OSを投入、構築の容易さや管理性の高さを訴求

 2006.01.21−マイクロソフトは19日、昨年11月に米国で開催された「スーパーコンピューティング2005」においてビル・ゲイツ会長兼チーフソフトウエアアーキテクトが公表した「Windowsコンピュートクラスターサーバー2003」についての報道関係者向け説明会を開催した。同社が初めてハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場に進出するための戦略製品であり、エンジニアリングワークステーションからのレベルアップを狙ったエントリー市場、または64ノードほどの構成を中心としたミッドレンジ市場をターゲットにしたもの。Linuxクラスターに対して、構築の容易さや管理性の高さ、Windows環境との親和性などのメリットを訴えていく。すでにベータ版(英語)が提供開始されているが、正式版は今年の半ばを目標にしながら、少なくとも年内には登場する模様。

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 同社では、最近のHPC市場のトレンドとして、トップ500のアーキテクチャーではPCクラスターが半分以上を占め、プロセッサーはインテルx86系が主流、インターコネクトもギガビットイーサネットやミリネットなど、業界標準のコンポーネントで構成されていることを指摘。WindowsのOSとなじみの深い環境になっていることを参入の理由としてあげた。

 具体的な製品名は「Windowsコンピュートクラスターサーバー2003」(Windows CCS2003)と呼ばれ、インテルEM64T対応のWindowsサーバー2003 x64エディション環境に専用のシステムとなっている。ベータ版の製品構成では、CD 2枚でセットアップするようになっており、CD 1枚目の「Windowsサーバー2003 コンピュートクラスターエディション」(CCE)をベースに、CD 2枚目の「コンピュートクラスターパック」を適用することで、CCS2003の全体がセットアップされる。1枚目はハイパフォーマンスインターコネクトをサポートしたWindowsサーバー2003 x64エディションと同等のものであり、2枚目のパックの中に業界標準のMPI(メッセージパッシングインターフェース)に対応したMS-MPIやジョブスケジューラー、クラスター管理ツールなど、HPC向けの機能が収められている。

 実際の導入作業は、PCクラスターをコントロールするヘッドノードと、実際に計算を実行する計算ノードに分けて行われるが、作業自体はきわめて容易。ヘッドノードから計算ノードを簡単に追加することができ、各ノードにCCEのバイナリーを展開したのち、ネットワーク構成を設定するだけ。リモートインストールサービスを利用して全自動でノード追加を行うこともできる。また、サードパーティー製の展開ツールもサポートしている。最大ノード数は128となる。

 内蔵されたMS-MPIは、業界標準のMPICH2と完全な互換性があるが、アクティブディレクトリーを利用してメッセージ通信時のセキュリティを考慮していることが特徴。メッセージがその都度認証され、セキュアなスタックであることを保証する仕組みである。業界標準に準拠しているため、既存のLinuxクラスター向けに書かれたアプリケーションを移植することも容易。

 専用のジョブスケジューラーについては、先着順に処理することが基本だが、バックフィルなどの機能を持たせ、クラスターのリソースを有効活用できるようになっている。バックフィルとは、32プロセッサーを占有するジョブ1の処理を、64プロセッサーを使いたいジョブ2が待っている時に、32プロセッサーで処理できるジョブ3が来れば、そっちを優先してジョブ1と同時に実行させるというスケジューリング方法である。

 ライセンス条件や価格などは現時点では決まっていないが、マイクロソフト日本法人では今回のCCS2003を重点新規事業に位置づけ、専任組織を立ち上げて本格的な事業化を目指していく。主な市場としては、自動車、航空宇宙、ライフサイエンス、地球科学、金融などの分野を想定しているという。

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 Windows CCS2003が実際に登場した場合、ハードウエアとしてはLinuxクラスターと同じものになるはずだ。OSの違いで性能が変わるかどうかが注目されるところだろう。この点に関して、今回の記者説明会の範囲では、「ベンチマークなどがまだ存在しないので明確に答えられないが、少なくともLinuxと同等の性能を引き出したい」とコメントするにとどまった。同社としては、性能よりもむしろ構築の容易さや管理性の高さを売り物にしたいようで、「現在でもシミュレーションのプリとポスト処理はWindowsで行われているわけで、その間の数値解析をLinuxで行うことはデータの受け渡しやフォーマットの問題などでユーザーに余分な負担をかけていると思う」とし、オールWindowsでの使いやすさ、整合性の高さを強調した。確かに、コンピューターに不慣れな研究者・技術者でも、HPC環境を簡単に構築し管理できることは、実際に普及を図るうえで大きなポイントになるだろう。

 なお、コンピューターケミストリーベンダーの中ではアクセルリスがすでに対応を表明している。