分子機能研究所が論理性重視のSBDDシステムを開発

たん白質の結合部位を独自手法で予測、バーチャルスクリーニングへの発展も

 2006.05.27−分子機能研究所(埼玉県三郷市、辻一徳代表)は、標的たん白質(受容体)と医薬分子(リガンド)のドッキングスタディを完全に論理的に行うことができるシステム「PIEFII」を開発した。たん白質側の情報に基づいて薬物設計を行うストラクチャーベースドラッグデザイン(SBDD)の統合ツールとして6月にも製品化する。理論や合理性を重視し、解析の序盤で研究者の主観が入らないようにしたことが最大の特徴。とくに、受容体側の相互作用部位を探索する新手法は特許申請中で、世界でも最高レベルの精度を実現しているという。

 同社は昨年夏から本格的に活動開始したベンチャーで、加ハイパーキューブの汎用分子モデリングシステム「HyperChem」を基盤に、SBDDの統合ツールを独自に構築してきている。

 今回開発したPIEFIIは、たん白質の構造全体の中で、医薬分子と相互作用する位置を論理的に探索する機能を持つ。たん白質の内部および表面においてリガンドの重原子(水素以外の原子)が当てはまる空間座標と、そのポイントがプラスの電荷を持つかマイナスの電荷を持つかなどの物理化学的性質を予測することができる。

 技術的な詳細は特許出願中のため明らかにされていないが、たん白質分子中の潜在的相互作用エネルギー場を解析し、エネルギー極小点を探してそこに重原子が配置できるかどうかを調べているという。入力に必要なのは、PDF(プロテインデータバンク)などの構造情報だけ。たん白質構造が未知の場合には、すでに販売中の論理的ホモロジーモデリングツールを組み合わせて使用することができる。

 解析事例としては、核内レセプターのアポたん白質(たん白質だけで構造が安定化している)とホロたん白質(リガンドと結合して構造が安定化している)での実証例がある。アポ型の構造中にリガンドが結合する可能性が高い位置を予測し、実際に結合しているホロ型との比較考察によってその妥当性を確認することができた。とくに、予測された重原子の来る位置を結ぶと、医薬分子の骨格構造を忠実になぞっていることや、各部の物理化学的性質が一致していることが特筆される。これにより、医薬分子設計のための非常に重要な知見が得られることになる。

 同社では、このPIEFIIを組み込んで、ドッキングシミュレーションツールを製品化する。PIEFIIが提示した重原子位置と物理化学的性質をみて、研究者は注目したいポイントを選び、実際に候補化合物を当てはめてドッキング解析を行うことができる。ドッキングに際しては、たん白質とリガンド側の両方の構造柔軟性を考慮できるが、計算時間を考えて例えばリガンドの周囲 5オングストローム以内など限定した範囲を対象にすることも可能。

 通常のパッケージソフトとして提供するほか、個別にコンサルタント契約を結ぶようなかたちでハイスループット対応のバーチャルスクリーニング版を用意する計画もある。