米ケンブリッジソフト:マイケル・トマッシク会長兼CEOインタビュー

対日戦略強化でさらなる飛躍を目指す、サイトライセンスへの移行推進

 2006.12.23−米ケンブリッジソフトは、化学構造式作図ツール「ChemDraw」で、化学に携わる研究者や学生に抜群の知名度を持つ。同様の機能を持つフリーのソフトも存在するが、それらを抑えて根強い人気を集めている。これら個人向けソフトに加えて、近年は企業向けの統合ソリューションでも存在感を高めつつあり、今年から日本事務所の体制を強化して専任の日本人スタッフを置くなど、さらなる飛躍を目指している。同社のマイケル・トマッシク会長兼CEOに今後の戦略を聞いた。

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 − 豊富な製品群がケンブリッジソフトの強みですね。

 「当社の設立は1986年。私が入社したのは1991年だったが、当時はまだ社員も6人で、製品はChemDrawとChem3Dのマック版だけだった。1992年にデータベース検索のChemFinderを出し、スイート製品のChemOfficeをリリースした。いまは化学だけでなく、生物分野にもフォーカスしている。マイクロソフト製品になぞらえるなら、ChemDrawが化学者のためのワードで、BioDrawは生物学者のためのワードだと位置づけている」

 − ChemOfficeもマイクロソフトオフィスになぞらえたものですね。

 「BioOfficeも含めてその通りだ。1999年に発売した電子実験ノートブック(製品名・E-Notebook)も、アウトルックのように便利なツールを化学者向けに提供したいという狙いで開発した。当社の製品は数が多いが、それぞれ単品ではなく、全体としてよく連携できることが重要だと思う」

 − バージョンアップを毎年きちんと行っていますが、ユーザーに新バージョンへ更新してもらうために苦労することはありますか。

 「最近は年間サイトライセンスへの移行を推進しており、安定してバージョンアップしてもらえるようになってきた。顧客にとって、このライセンスは、いつも最新の製品を制限なく使えるというメリットがある。大学であれば、教員も学生もすべて自由に利用可能。企業向けの年間サイトライセンスも用意しているが、費用の面でもきわめて有利な条件であり、大きな反響をいただいている」

 − バージョンアップで、新しい機能がネタ切れになることはないですか。

 「われわれはユーザーに近いところで仕事をしているので、開発のアイデアをフィードバックとして得やすい。こんな機能がほしいとか、これとこれを組み合わせて使いたいとか、ユーザーの生の声を製品づくりに反映させている。それに、現在の製品ラインアップが完成されたものだとは思っていない。他社製品の買収やパートナーとの連携で補完していく必要がある。最近のBioDrawやLIMS(研究所統合情報システム)関連も買収した製品だ」

 − 最近は企業向けの伸張が著しいようですね。

 「2005年は、個人向けのデスクトップ製品と企業向けのエンタープライズ製品の売り上げが半々だったが、2006年は3分の1がデスクトップ、3分の2がエンタープライズになる。全社の売り上げ規模は、2005年は約2,000万ドル、2006年は約3,000万ドルの予定。2009年には7,000万ドルの水準を目指している」

 − 株式上場の予定はありますか。

 「上場を企業のゴールだとは思っていない。資金調達などで有利な点もあるが、逆にデメリットも考える必要がある。少なくとも私にとっては、株式市場を喜ばせるよりも、ユーザーを喜ばせることの方が重要だ。いまはまったく考えていない」

 − 最後に日本のユーザーにメッセージをお願いします。

 「ChemDrawもChemOfficeも、いち早く受け入れてくれたのは日本のユーザーだった。いわば、当社は日本市場に育てていただいたベンダーであり、とても感謝している。ただ、電子実験ノートに関しては、欧米の企業が導入・利用で先行している。日本企業にも同じニーズがあるはずなので、ぜひ新しい技術を採用して、研究業務を効率化させてほしい。日本企業が欧米にITで遅れることがないように、当社としても全力で支援していきたい」