2007年春CCS特集:総論

多様化するニーズに即断即応、SBDD・電子ノートなど好材料豊富

 2007.06.28−コンピューターケミストリーシステム(CCS)市場は、ここ数年不調だった生物系市場がようやく底を打ち、化学系・材料系を中心にあらためて成長路線を回復しつつある。具体的な製品領域をみても、新薬開発では薬物と受容体とのドッキングシミュレーションを中心としたSBDD(ストラクチャーベースドラッグデザイン)、材料開発ではナノスケールの挙動を解析できる先端シミュレーション、情報化学分野では研究のインフラとしての化合物情報管理システム、電子実験ノートブックなど、今後の成長を支えてくれそうな好材料が多い。CCSは、化学・医薬・材料研究を支える支援ツールとして広い意味ですっかり業務のなかに定着しているため、各ベンダーにはユーザーニーズを最大限に尊重したスピーディーな展開が求められている。

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 CCSnewsでは、毎年のCCS特集に合わせて、主要ベンダー各社の売り上げの推移をもとにしたCCS市場動向を調べている。それによると、2006年度の国内CCS市場規模は約374億円で、3%ほどの成長をみせたとみられる。

<底を打ったバイオインフォ市場>

 グラフに推移を示したが、ここ2年連続で落ち込んでいたのはバイオインフォマティクス市場の不振によるもの。市場が国家プロジェクト依存型だったため、その終了とともに縮小に転じた。全体的なボトムは2005年度だったが、バイオインフォ系ベンダーの中には2006年度に底を打ったところもあり、全体への影響は残った。

 反対に、計算化学・モデリング系、情報化学系の市場は平均で10%前後の伸びがあったと思われ、総合してCCS市場全体では3%成長と推定した。今後はあらためて成長路線を進むと予想されるが、今年の3月をもって撤退や解散したバイオインフォ系ベンダーがかなりあったため、2007年度の市場にもいくらかのマイナス要因となりそうだ。

 こうした影響は思わぬところにもあらわれている。ゲノムブームが燃え上がった2000年ごろにはコンピューターとバイオの両方の知識を持つ“バイオインフォマティシャン”が大量に不足すると声高に叫ばれたことから、全国の大学で次々に専門講座が設けられ、多くの学生を集めたのである。

 ところが、その就職先となるべきバイオインフォ系ベンダーが相次いで事業縮小・撤退・解散してしまう状況下で、専門を生かして働くことができない学生たちが増えてきているようなのだ。バイオインフォマティシャンとしての就職先はベンダーだけではないが、浮ついたバイオブームのつけが若い人たちにしわ寄せとなってあらわれているのだとすれば、たいへん残念なことだといわざるを得ない。

<先端シミュレーションで活気づく材料研究>

 一方、材料開発の現場ではCCSに対する期待が高まっている。これは、目にみえる物理現象を相手にしてきた世界だが、材料特性の追求を極限まで図ろうとするなかで、シミュレーションによってナノスケール/ミクロスケールの情報を取り入れたいという動きがはっきりとあわられてきたからだ。計算手法の進歩とコンピューターの性能向上が未踏領域のシミュレーションを可能にしつつある。

 この領域のCCS技術が実際の材料開発に役立つ水準に到達できるかどうかは、いくらか未知数の部分はあるが、エレクトロニクスや自動車など日本の基幹産業に関係する用途への展開が見込まれることから、注目度は高い。

<ケムインフォは大規模案件への発展期待>

 次に、ケムインフォマティクス分野では、今年から来年にかけて電子実験ノートブック市場が本格化すると期待されている。紙の実験ノートが単に電子媒体に替わるというだけではなく、過去の実験記録をデータベース化することによって情報共有が促進されることや、研究ワークフローの改善につながることなどから、とくに製薬分野で導入の機運が盛り上がっているもの。

 化合物データベース管理を中心とする研究の情報インフラを再構築する需要とも密接にかかわってくることから、大規模な案件となるケースが多く、各社とも熱のこもった販売合戦が今後繰り広げられそうだ。