ElsevierMDLがエグゼクティブセミナーでIsentris2.0の新機能紹介

新しいテクノロジーへの移行を促進、包括的な製品ラインの強み強調

 2007.04.14−ElsevierMDL(エルゼビアMDL)のラース・バーフォド社長兼CEOなど幹部が3月末に来日し、東京および大阪でエグゼクティブセミナーを開催した。欧米向けに2月にウェブセミナーとして提供した内容を膨らませて実施したもので、同社の日本市場に対する意気込みを感じさせた。医薬品研究開発における時間短縮・コスト削減・生産性向上などのトレンド、それを支える情報共有やワークフローの仕組み、新しいテクノロジーの実装支援まで、幅広い話題が扱われた。

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開発から運用までのライフサイクルでコスト削減

 最初に登壇したラース・バーフォドCEOは、開口一番、昨年の好調さを強調。「2006年はたくさんの製品が出た年だった」と述べ、Isentris 2.0を構成するドットネットユーザーインターフェース、ISIS BaseをリプレースするIsentris for Excel、マイクロソフトの標準アーキテクチャーベースのIsentris .NET controls collection、分子情報と反応情報を統合したMDL Direct 6.0 data cartridge、生体分子の作画にも対応したMDL Draw 2.0、情報統合の基盤となるMDL Core Interface 2.0 with Integrating Data Source、さらにアプリケーション製品としてのMDL Notebook 2.0、MDL Logistics 1.2、MDL Registration 1.0、生物系製品のMDL Assay Explorer 3.1 (Excel)、医薬安全性データベースのPharmaPendium−といった製品を挙げた。

 この結果、2006年末時点での顧客数は、ACDが539社、ISISが511社、DiscoveryGateが454社、Patent Chemistry Databaseが159社、Assay Explorerが77社、Isentrisエンタープライズエディションが75社、MDL Notebookなどのアプリケーション3製品が合わせて33社、PharmaPendiumが30社という実績になっている。

 バーフォドCEOは、次いで医薬品産業の研究開発には3つの大きなチャレンジ(時間短縮、コスト削減、生産性向上)があると述べ、それらをIsentris 2.0が解決できると論じた。

 とくに、コスト削減についてはITの標準技術をサポートしていることがポイントになるようで、「ハードウエアはLinux対応、ソフトウエアもドットネットやJavaなどのオープン標準を採用しており、開発にはマイクロソフトの標準的な開発ツールが利用できる。マイクロソフトの標準ユーザーインターフェースに準拠しているのでユーザートレーニングもほとんど必要ない。開発、導入、運用管理のライフサイクル全体を通じて大きなコスト削減が可能」とした。

 また、バーフォドCEOは、Isentris 2.0を従来のISISと比較して、パフォーマンスが大幅に改善されたことを訴えた。実は、Isentrisの動作が遅いことがこれまでたびたび問題視されており、ユーザーからも改善要求が強かった点だった。今回、バーフォドCEOが示したベンチマークによると、ネットワークパフォーマンスの改善により、ISISに比べてブラウジングで15倍、検索で2倍の高速化を達成。MDL Direct 6.0 を使った反応検索では、ソラリス上で7倍、Windows上で6倍のスピードとなった。500ユーザーからの一斉アクセステストでもパフォーマンス低下はみられなかったという。

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新機能シンセシスプランナーに注目集まる

 バーフォドCEOのオープニングスピーチを受けて、さらに技術面での詳細を解説したのがCSO(最高科学責任者)を務めるトレバー・ヘリテージ上級副社長。研究の時間短縮と生産性向上をもたらすIsentris 2.0の新機能を紹介した。

 データウェアハウス(DWH)のようにダイナミックな視点でデータ分析が行えるIntegrating Data Source(IDS)、1つのデータベースのなかで分子と反応を同時に検索できるようにするMDL Direct 6.0の新しいデータカートリッジ技術、生体分子にも対応して「もういろいろなドローソフトを使い分ける必要はない」というMDL Draw 2.0など、目を引く機能は多かったが、なかでも聴講者の関心を集めたのが「シンセシスプランナー」と呼ばれる機能。

 今回のIsentris 2.0では、検索をするとそのヒットした項目などにリンクを表すいろいろな印が出てくるようになっている。例えば、分子構造の横に「ACD」というマークが付いていれば、それをクリックすると、その分子に関するACDデータベースがオーバーラップして表示される。これと同じようにしてシンセシスプランナー機能を呼び出すことができる。

 シンセシスプランナーのデモ画面を写真に示した。反応式を検索したあと、画面上の分子構造の横にある小さな印をクリックすると、その分子を生成物とするすべての反応を自動的に表示してくれる。反応式の中のどの分子でも任意に着目して、それにいたる反応経路をすぐに網羅的に調べることができるので、反応のプランニングをスピーディーに行うことが可能。

 また、“コンテンツ・イン・コンテキスト”も研究の生産性を向上させる。ヘリテージCSOは、「例えば、MDL Notebookを操作していて、ちょっとこの化合物の反応情報を調べてみたいというとき、そのままバイルシュタインのデータベースを検索すると、その結果がMDL Notebookの中に出てくる。以前は、作業を中断して別のアプリケーションを起動し、検索結果をコピー&ペーストするなどの手間がかかった。Isentris 2.0では、研究や思考の流れを妨げることなく、いろいろなソフトを使い分けたりすることなく、必要な情報を手元に引き寄せることができる」と説明する。

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Isentris移行支援のプロフェッショナルサービス

 続くセッションでは、コンサルティングサービス担当のジョン・マッカーシー副社長が、同社のコンサルティング部門の紹介を行った。同部門は約70名のコンサルタントを抱え、年間300ほどのプロジェクトをこなした経験があるという。ISISからIsentrisへの切り替えを支援することが主な使命となるが、Isentrisの新しいSAR(構造活性相関)ツールを導入するなどのプロジェクト単位での移行、MDL NotebookやMDL Logisticsを導入するなどのアプリケーション単位の移行、そして全社レベルの全面移行まで、さまざまな規模の案件として顧客のプロジェクトをサポートできるとした。

 また講演の中では、Isentrisへ移行するに当たっての障害は何かという興味深いデータも披露された。それによると、リソース不足が53%で最も多く、次いで予算の問題が47%、投資対効果の問題が同じく47%で続いた。マッカーシー副社長のセッションの結論として、顧客のさまざまな事情に合わせたプランを用意できるということが強調された。

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 今回、CCSnewsではセミナー後にインタビューも試みた。やり取りの要旨は以下の通り。

 − ここへ来て製品のリリースが加速されていますが、その要因は?

 バーフォドCEO 米国とロシアに開発拠点がある。とくに人を増やしたということはないが、当社の開発陣は平均勤続年数が12年で、経験あるベテランぞろいだ。

 ヘリテージCSO 技術的に言うと、Isentrisを構成する3層アーキテクチャーのうち、ミドルウエアを含む中間層の開発が完了したことが大きな要素になっている。あとは業界標準のドットネットフレームワークを使った開発になるので、スムーズに進む。

 − いま、ISISの更新期を競合他社も狙ってきています。脅威には感じませんか?

 バーフォドCEO 多彩なデータベース、各種のアプリケーションなど、AからZまですべてが揃っているのは当社だけだと思う。それに、IsentrisではAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)を公開し、アライアンス戦略も進めている。他社のコンポーネントやアプリケーションと共存できるのがIsentrisだ。他社と局地的に戦うことはあっても、ほかのところでは協調ができる。ちょうどマイクロソフトのような存在だと思っている。