富士通が創薬支援サービス事業を本格展開へ

独自技術・手法の内部ソフトを活用、幅広いメニュー揃える

 2007.04.09−富士通は、20年以上のコンピューターケミストリーシステム(CCS)事業のノウハウを生かし、創薬研究支援のサービス事業に本格的に乗り出す。独自の技術・手法に基づくストラクチャーベースドラッグデザイン(SBDD)、ペプチド配列設計、高精度結合エネルギー計算、動的パスウェイ解析など、まだ製品化していない最先端の内部ソフトウエアを個別契約でライセンス供与したり、受託解析・コンサルティングを含めた幅広いサービスを提供したりするもの。最近、IT系企業の創薬支援事業からの撤退が目立っているが、富士通は長年継続して培ってきた技術を自負し、満を持してサービスに取り組んでいく。

 富士通は、昨年にバイオIT事業開発本部を内外合わせて130名体制に再編し、バイオケミカルプロジェクト室を立ち上げて、先端技術をサービス事業に展開する準備を進めてきていた。事業拠点の幕張システムラボラトリー内にトータル性能6.2テラFLOPSの計算機環境(PCクラスターなど)を整備。これをサービスに利用する。

 具体的なサービスとしては、まず独自のSBDDシステムを用いた薬物候補構造創出サービスがある。立体構造が既知の標的たん白質に結合する薬物分子構造を“デ・ノボ”手法にて探索するもの。計算にはフラグメント法の一種であるOPMF(Optimum Packing of Molecular Fragments)を利用し、要望によって抽象構造または実構造での提示を行う。実構造の場合は、原子種・結合種をアサインし、ドラッグライクや合成可能性も考慮することが可能。期間は、抽象構造創出までに2−3ヵ月、実構造の決定にはさらに2−3ヵ月が必要となる。

 次に、ペプチド医薬品を対象とした候補配列を探索・設計するサービス。実験情報を使わずに実用的な新規候補配列を創出する世界初のペプチド自動設計システム「PeptiDesign」を利用する。

 まず、標的たん白質に結合するたん白質の一部を切り出した配列(シード)またはランダム生成した初期配列からなるシードペプチド配列集団を作成。側鎖の変更や分子力学計算による構造最適化を行って、目的配列の立体構造を作成する。次に、既知結晶構造情報から統計的に決定した評価関数(PMF:Potential Mean Force)をベースにした独自開発のドッキングプログラムを利用し、標的たん白質と候補ペプチドとの結合性を評価する。その際、たん白質とリガンドの間の原子間反発をより正確に見積もれるようにPMFを改良して適用しているという。そして最終的に、遺伝的アルゴリズムを用いて最適の配列を探索するという手順になる。

 同社では、このペプチド設計を受託するとともに、システムの使用権の提供も行う。受託の場合のプロジェクト期間は2−3ヵ月、システムの提供は年額あるいは月額でのライセンスを用意している。

 3番目のサービスは、大規模並列アルゴリズムを組み込んだ高精度結合エネルギー計算プログラム「MP-CAFEE」を利用する。富士通研究所が独自開発したもので、これも社内使用だけで商品化はされていない。たん白質とリガンドの結合・解離のプロセスにおける自由エネルギー変化を、多数の独立した分子動力学法(MD)シミュレーションに分割して計算し、この結果からAR法と呼ばれる統計的手法を用いて結合自由エネルギーを高精度に求める。力場としては、たん白質にはAMBER99、リガンドにはGAFF(最近ではたん白質にもGAFFを適用するケースを検証中)を採用している。

 スタンフォード大学との共同研究で、実験値との誤差が、プラスマイナス1K cal/molという実用レベルの予測精度を達成できることが確認されているという。幕張のセンターの計算機資源をフルに用いた受託計算サービスを提供するほか、こちらも年間ライセンスによる使用権供与にも応じる。

 最後は、パスウェイ解析ツール「P2Pインスペクター」を用いたサービスで、やはりこのソフトも製品化はされていない。文献データベース「MEDLINE」の中から自然言語処理によって375万件の相互作用情報を抽出しており、利用者の視点でダイナミックにパスウェイを構築したり解析したりすることができる。バイオ文献に適したテキストマイニング技術が組み込まれており、分子間相互作用や疾患・副作用情報などを系統立てて引き出すことが可能。

 人手で文献を調べるのではなく、すべて機械的に行っているため、情報量が多いのが特徴。これも、受託解析とソフトのライセンス提供の2本立てのサービスとなる。