米シミュレーションズプラス:ウォルトスCEOインタビュー

薬物動態研究・ソフトウエア主導が定着、経口以外の各種剤形に対応へ

 2008.11.05−米シミュレーションズプラスは、生体内における医薬品の吸収など、薬物動態研究や製剤設計に役立つ“インシリコ創薬”のための支援ソフトウエアを開発。その予測精度には定評があり、米食品医薬品局(FDA)や米国立衛生研究所(NIH)も同社のソフトを利用している。とくに、化学物質の毒性予測は幅広く注目を集めており、製薬業だけでなく最近では化学・食品産業にもユーザーが広がっているという。同社のウォルター・ウォルトス(Walter S. Woltosz)会長兼社長兼CEOは、「かつて、医薬のR&Dは実験がすべての世界だったが、いまや実験の前にシミュレーションを行うスタイルが完全に定着した。日本でも同じ変化が生じている」と話す。

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 シミュレーションズプラスは、ADME(吸収・分布・代謝・排出)および毒性予測システム市場を確立したパイオニアともいえる存在。その製品は販売代理店を介して1998年から国内に紹介されており、すでに多くのユーザーに利用されている。現在、代理店はノーザンサイエンスコンサルティング(NSC)が務めている。

 主要な製品としては、薬物の消化管内での吸収、血中濃度の変化などを予測する「GastroPlus」、ADME特性・毒性を予測するためのモデル構築と、実際に予測する機能を統合した「ADMET Predictor」、インビトロでの製剤の溶出試験をシミュレーションする「DDDPlus」、大量の化合物ライブラリーを効率良く扱い、メディシナルケミストの観点で創薬プロセスを加速する「ClassPharmer」−などがある。

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 − 今年の夏に各製品がバージョンアップされました。それぞれ簡単にポイントを教えてください。

 「GastroPlusはバージョン6.0となり、製剤設計のための機能の使い勝手が良くなった。トップ20などのグローバル大手だけでなく、ジェネリック企業にも浸透してきている。ADMET Predictor 3.0は、ディスクリプターを見直し予測精度を高めた。ab initio計算に基づく新しい部分電荷モデルも実装した。また、吸収、代謝、毒性などモジュール別に購入できるようにパッケージ化した。化学会社などで、毒性予測だけがほしいといった要望に応えたものだ」

 「ClassPharmer 4.5では、Pair SAR機能を追加した。共通の骨格構造を持っているのに、わずかな構造変化だけでIC50などの値が大きく変わるケースがあるが、そうした分子のペアを同定することができる。ケミストにとっては興味深い機能だと思う。骨格構造にRグループのすべての組み合わせを付加したデノボ(de Novo)ドラッグデザイン、ルールに従って分子構造を変化させて最終構造を提示する分子のトランスフォームなどの機能を追加している」

 「DDDPlusの最新版はバージョン2.2となる。溶出試験そのものは難しくはないが時間がかかり、廃液の処理なども厄介になる。そこで、試験をせずに予測ができるDDDPlusへの引き合いが日本においても増えてきている。試行錯誤に時間をかけずに剤形のデザインが行える」

 − 製品の中でも、とくにGastroPlusは代表格です。パイオニア的な存在でもあったと思うのですが、何か最近のトピックスがありますか。

 「確かに、GastroPlusが“生理学的薬物動態モデル”(PBPK)をいち早く取り入れたことが、薬物動態の研究におけるコンピューターシミュレーションのトレンドをつくったと自負している。今年の国際薬物動態学会で発表された事例だが、前臨床のデータを使ってヒューマンPKの予測精度を競うコンペティションが行われ、当社のほか4社のベンダーとファイザーの内部開発プログラムがそれに参加した。結果は、静脈注射と経口投与の両方でわれわれのGastroPlusがトップを取った。やはり、PBPK技術の優位性が大きい」

 − 今後のGastroPlusの機能強化について教えてください。

 「GastroPlusは経口投与薬剤の消化管での吸収に特化したシステムだったが、今後は対象を広げていこうと計画している。点眼や眼球への注射、肺からの吸入、口の中で溶解させるタイプや、経皮吸収によるものなど、さまざまな剤形に対応させていく。年末から来年にかけて、順次提供していきたいと考えている」

 − それは楽しみですね。ところで、日本でのビジネスの状況はいかがですか。

 「現在、世界全体での売上比率は、北米が50−55%、欧州は30−35%、アジアが15−20%といったところで、構成比はここ数年変わっていない。日本市場は重要視しており、年に3−4回は来日している。日本でのビジネスは順調だと思っている」

 − それは熱心ですね。日本のユーザーの要望を積極的に製品に反映しているとも聞いていますが・・・。

 「顧客の意見を聞き入れて、製品の機能を高めたり、使いやすくしたりすることは、さらに製品を普及させるための足がかりになる。例えば、DDDPlusを日本薬局方に対応させたし、ClassPharmerについても日本のユーザーからのフィードバックは貴重だと感じている」

 − なるほど。日本でビジネスをはじめて10年になるわけですが、どんな変化を観察しておられますか。

 「日本市場に特有ということではなく、薬物動態学の世界全体の変化と同じ傾向が日本にもあらわれている。すなわち、昔は実験が主体だったが、いまはソフトウエアを使ってバーチャル実験を行うように変わってきたということだ。これは、もはや研究現場だけの認識ではなく、ハイレベルのマネジメント層がこのことに理解を示しはじめていることも、ここへ来ての新しい変化として特筆できるだろう」