シミックス・テクノロジーズが国内で初のシンポジウム開催

3事業分野のロードマップ公開、Isentrisへの移行環境整う

 2008.10.15−シミックス・テクノロジーズは、9月9日から11日まで京都にて、MDLの買収後に国内では初めてとなる「シミックスシンポジウム」を開催した。前年まで行われていた旧MDLのユーザー会と旧シミックスのユーザー会を吸収し発展させたもので、ユーザー会としての性格は薄れ、シミックス側からのプレゼンテーション中心の内容に変わった。ただ、会の中では今後の運営方針に関するユーザー側の率直な意見も集められ、シミックスからは次回に向けて要望を反映したいとの意向が表明された。新生シミックスの事業は、“ソフトウエア”、“ツールズ”、“リサーチ”の3分野から構成されるが、その全体像および各事業の戦略・ロードマップが明らかにされた。

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 シミックスは、少量のサンプルを用いた実験を自動化し、ハイスループットで実施する技術を核にした受託研究ビジネス「Symyxリサーチ」でスタートした企業。設立は1995年だが、その後、内部で開発し使用していた自動化実験システムを製品化し、それを外販する「Symyxツールズ」事業に乗り出した。さらに、電子実験ノートブックなどの実験支援のソフトウエアベンダーを買収することで「Symyxソフトウエア」事業に進出したというのがこれまでの経緯となる。

 さらに昨年10月、旧MDLの買収を通じてソフトウエア事業を拡大。現在では、Symyxソフトウエア事業が約1億ドル、Symyxツールズ事業が約5,000万ドル、Symyxリサーチ事業が約2,500万ドルという売上構成となっている。

◆Symyxリサーチ−広範なテーマに対応し新たな段階へ

 Symyxリサーチ事業は、ここへ来て新たなステージに進みつつある。当初は少数の顧客と密接に連携しつつ、顧客固有の問題解決型のスタイルで、化学品・ポリマー・電子材料などの分野にフォーカスし“ハイスループット実験”技術の開発を行ってきた。これに対し、今後はさらに幅広いサービスを展開していく。具体的には、石油精製、化学、ライフサイエンスなどの分野を対象に、3ヵ月間という短期間で結果を出すプロジェクト推進を通じ、多くの案件の獲得を目指す。

 幅広い技術領域に対応できるとしており、コモディティーあるいはファインケミカル分野では光学活性水素化、ヒドロホルミル化、選択的オリゴマー化、医農薬分野ではプロセス化学、プレフォーミュレーション、小分子から大分子のフォーミュレーション、エネルギー分野では排出物削減、燃料プロセス、燃料電池、石油精製と基礎化学品分野では水素化精製、接触分解、接触改質、部分酸化、ポリオレフィン分野では触媒調製、製品開発、用途試験、基礎または特殊ポリマー分野では新材料の探索、フォーミュレーションとテスト、ホーム&パーソナルケア−などのテーマをカバー。

 とくに、ライフサイエンス関連では、溶解性、結晶化、安定性、プロセス化学、製剤開発、GMP安定性検討、GMP対応へのスケールアップなど、創薬から開発までの幅広い研究領域でハイスループット実験による支援を提供することができるという。

 3ヵ月以内で行えるプロジェクトの事例として、(1)500のポリマーを合成してそれぞれを4つのエマルジョンにし、その粒径・粘性・せん断安定性を測定、(2)3種類の触媒反応のテストで、それぞれ800−1,000反応の収率・選択性・不純物プロファイルを解析、(3)3,000サンプルに対する溶媒・温度・pHに依存する薬効成分の溶解性を解析−などの事例が説明された。

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◆Symyxツールズ−ハイスループット実験で研究効率を数倍に向上

 Symyxツールズは、ハイスループット実験を行うための製品化されたシステムで、少量のサンプルで大量の実験をパラレルに実施する“装置”、大量の実験データを取得・管理・可視化する“ソフト”、さらに特異的で複雑な試験要求にこたえることができる“ノウハウ”−の3つを包括的に提供できることを特徴としている。

 モジュラー型のプラットホーム上で用途ごとに組み立てられた自動化システムで、ワークフローを構成する要素としては、あらかじめ用意された標準品だけでなく、顧客ニーズに合わせたカスタム開発品、他社製品を組み合わせることができる。

 具体的には、ライフサイエンス分野の製剤やプレフォーミュレーション、プロセス最適化、石油精製・石油化学分野で不均一系触媒、均一系触媒、ポリオレフィン、機能製品分野ではヘアケア製品、ホーム&パーソナルケア製品、塗料−などの研究に有効なシステムが用意されている。

 とくに、研究や開発のステージの進展に合わせて幅広い実験をカバーできるように設計されており、例えば機能製品分野では、組成、色彩・光沢、接着・粘着、保持力、安定性、化学品分野では、合成、触媒、反応、収率、選択性、スケールアップ、製薬分野では、溶解性、pKa、LogP、化学的安定性、結晶多形、粒径・形状、剤型などに対応している。いずれにしても、より多くの条件での実験をハイスループットで実施できるため、既存ユーザーの多くは研究のパフォーマンスが数倍に向上したという実感を抱いているようだ。

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◆Symyxソフトウエア−電子実験ノート開発が急ピッチで進行、Isentrisへの柔軟な移行環境が整う

 Symyxソフトウエアは、旧MDLと比べて製品レンジが大幅に広がったことが目立つ。実験をデザインし、実行し、データ解析を行い、レポーティングするという一連のライフサイクルを、統合化されたデータベースプラットホーム上で実現できることが特徴。製品は大きく4つのセグメントに配置されており、研究室の自動化とワークフローをカバーする「Symyx Lab Execution & Analysis」(LEA)、科学的なワークフローと知財保護を行う「Symyx Notebook」、データへの一元的なアクセスとデータ統合・データ解析の基盤となる「Symyx Isentris」、マスターデータ管理とワークフローサポートを行う「Symyx Laboratory Informatics」−が揃っている。

 実際の利用シナリオとしては、Symyx LEAで実験をデザインし、そのプロトコルなどをSymyx Notebookで確認、LEAとSymyx Toolsを組み合わせるなどして実験を実施、得られたデータをSymyx Isentrisによって登録・検索・解析し、さまざまなドキュメントと統合してレポートを作成する。また、Symyx IsentrisとSymyx Notebookの連携により、グローバルな情報共有と研究のコラボレーションを促進させる。

 なかでも、注目製品の1つがSymyx Notebookである。共通のプラットホームで研究所のさまざまな部門が利用し、情報の統合化と共有化が実現できるようにデザインされている。

 現在提供中のバージョン6.0は、共通プラットホームを構成する基本機能を中心に実装されており、今後順次機能強化、ならびにテンプレートによる用途展開(メディシナルケミストリー、プロセスケミストリー、分析、製剤など)が行われていく。

 具体的には、今年の11月から12月にかけての6.1(以降のリリース時期はすべて予定)でマテリアルテーブルやバランスインテグレーションのサポート、LIMSとの連携、ソフトウエア開発キットの提供などが行われ、2009年第1四半期の6.2で反応スキーマのセクション追加、化学量計算、マルチステップ反応のサポート、構造および反応検索、漢字のサポート、2009年第2四半期の6.3はケミストリー機能の強化が中心となり、ハイスループット実験のツールズ製品群との統合も図られる。また、2009年第2四半期から第3四半期にかけて6.4も予定されており、こちらは分析部門向けの機能追加が行われる。

 一方、Isentrisについては、バージョン3.0リリース以降の6ヵ月間での順調な推移が強調された。累計のライセンス数は9,400に達し、86の顧客が導入済み。さらに32のコンサルティング案件を実施中(一部提案中)だという。

 日本市場はISISからIsentrisへの切り替えが遅れていたが、年内には合計4サイトで稼働するようになるほか、評価中のサイトも3つあることが明らかにされた。今回のシンポジウムでは、小規模(20ライセンス程度)、中規模(100ライセンス程度)、大規模(400ライセンス以上)に分けて、具体的な導入提案と欧米の事例紹介が行われた。シミックスのサービス部門がIsentrisへの移行を全面的にサポートするとした。

 とくに、新しいIsentris3.1により旧ISISからの機能移行がほぼ完了した。ニーズの高かったパーソナルデータベース機能も3.1で実現された。同時に、サーバー製品側ではISIS/Host5.2とSymyx Direct6.1が提供されたことにより、ISISとIsentrisを共存させて移行に備える環境が整った。

 ISIS側からはDirect6.1を介してIsentrisへ、Isentris側からもDirect6.1を介してISISのデータベースへアクセスすることができる。ISISとIsentrisの両方からデータの登録と検索が行え、データ管理も簡素化される。これにより、データベースの完全移行を都合の良いときに実施することができるほか、データベース移行と切り離してユーザーグループの移行作業を行えるようになった。つまり、ISISを停止することなくIsentrisを段階的に導入することが可能。

 ここ数年のCCS業界では、ISISのサポート期限がいつまでかに関心が集まっていた。競合ベンダーにとっては、そのタイミングがリプレース作戦を仕掛ける絶好のチャンスになるためだ。そのせいか、シミックス(旧MDL)側はそのサポート期限を明確にしてこなかった。ただ、いつかは明確にせざるを得ないだろうというのが周囲の見方だった。

 その意味で、今回のシンポジウムでのメッセージは、「期限を気にせずにISISを使い続けてください」というものだったと思われる。もちろん、既存のISISユーザーにとっては、それぞれの都合の良い時期に柔軟にIsentrisに移行できるようになったことは、大きな恩恵であるに違いない。また、競合他社に対してはうまいけん制になったともいえるだろう。