アクセルリスが最新版Materials Studio 4.4 をリリース

メソ領域対応で新計算エンジン追加、適用範囲がさらに拡大

 2009.01.15−アクセルリスは、このほど材料設計支援システム「Materials Studio」の最新バージョン4.4をリリースした。材料の大規模な系を扱うメソスケールシミュレーションのための新しい計算エンジンが組み込まれたほか、原子を単位としたモデルからビーズを単位としたモデルへの変換を容易にする粗視化ツールなど、メソ領域に対応したGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)も一新した。各種材料を対象にしたモデリングやシミュレーションの適用範囲が広がったことで、さらなる普及が期待される。

 Materials Studioは、分子・固体の量子化学計算、触媒・電子材料などの固体第一原理計算、分子・ポリマーなどの分子力学/分子動力学計算、メソスケールシミュレーションとマクロ物性の計算、結晶構造解析・結晶多形予測、統計的方法による物性推算など、材料設計支援のための多彩なツールを共通プラットホームとGUI環境で駆使できるようにした統合システム。

 今回の最新版でも、高機能化された計算エンジン群が注目されるが、なかでもメソ領域に関しては2種類の新エンジンが追加された。原子・分子論的なミクロ領域と、CAE的なマクロ領域との中間的な位置づけの時間・空間スケールを扱う計算手法であり、自動車やエレクトロニクスなどの先端材料開発で注目度が高い。

 新エンジンの1つは「Mesotek」で、これまで提供されていたMesoDynの後継製品となる。次世代型擬スペクトル法を利用した自己無撞着場法プログラム。複雑流体を粗視化して表現し、系のポテンシャル場と密度場の鞍点の最適化や動的な発展の解析を行うことができる。とくに、柔らかい材料のなかに硬い材料が分散して運動するといった複雑な対象を解析できることが、これまでのMesoDynとの大きな違いになるという。基本的に、ナノ粒子分散やナノ複合材料の研究に活用できる。

 2つ目の新エンジンは「Mesocite」。流体力学を基礎とした散逸粒子動力学法(DPD)またはニュートン力学ベースの粗視化分子動力学法(CGMD)のどちらかを用いることができる。DPDエンジンは以前から提供されているため、CGMDエンジンが新規に用意されたことになる。

 CGMD法を利用したMesociteでは、一定単位の原子のグループを、ニュートン力学的に相互作用するビーズに置き換えて表現する。立体障害、環状構造、電荷が入ったメソスケールモデルの計算が可能。DPDでは扱えなかった高分子の絡み合いなどの問題にも対応できる。現在は生体分子向けのMARTINI力場が搭載されているだけだが、今後いろいろな力場が登場してくればさらに有用性が高まりそうだ。

 これら新エンジンに加え、CASTEPやQMERAといった既存エンジン群も機能強化されている。密度汎関数法(DFT)によるab initio量子化学計算プログラムであるCASTEPは、内殻励起スペクトルの計算が可能になった。EELS/ELNES/XANES/XESスペクトルを予測し、電子顕微鏡などの実験スペクトルにおけるピークの帰属、化学結合パターンの解析、伝導体物性などに関する知見を得ることができる。また、B3LYPハイブリッド汎関数のサポートにより、半導体の計算などでバンドギャップが小さめに出る問題が改善されたという。

 一方、QM/MM(量子力学/分子力学)法をサポートしたQMERAでは、初めてアディティブ型の計算手法が採用された。QM/MMは大きな系を量子化学的に解析したい場合のリーズナブルな手法として注目されているが、一般的なQM/MMはサブトラクティブ型の計算となっているという。つまり、系のエネルギー全体を表す場合、サブトラクティブでは全体のMMと重要な部分のQMを加算し、そこから重要な部分のMMを差し引く方法になる。それに対してアディティブ型の計算は、重要な部分のQMとそれ以外の部分のMMを加算したうえで両者の境界部分を考慮するという方法。

 ナノチューブ上で分子が反応するとか、たん白質と薬物との活性サイトにおける反応を考慮するなど、重要な部分をMM力場で表現することが難しいようなケースで、アディティブ法が有効になるということだ。これをサポートしたQMERAは同社のナノテクノロジーコンソーシアムのメンバーには先行リリースされていたが、一般リリースはこれが初となる。

 このほかに、今回のバージョン4.4には、同コンソーシアムメンバーだけの先行リリースとして新エンジン「DFTB」が含まれている。密度汎関数タイトバインディング法(DFTB)プログラムで、これまで以上の大きな時間・空間スケールの系に対する量子力学計算が可能。ただ、パラメーターがまだ十分に揃っていないため、今後に向けてパラメーター開発ツールなどの準備も行われているようだ。