エルゼビアが新統合ファクトDBサービス「Reaxys」を提供開始

3つのデータベースを統合、“合成計画”など新機能搭載

 2009.02.25−科学技術・医学分野の学術出版および情報サービス大手のエルゼビア(本社・オランダ)は、化学・創薬研究のためのリニューアルされたファクトデータベースサービス「Reaxys」(リアクシス)を提供開始した。定評のある「CrossFire Beilstein」(バイルシュタイン)、「CrossFire Gmelin」(グメリン)、「パテントケミストリーデータベース」(PCD)の3つのデータベースコンテンツを統合し、使いやすく一新されたウェブ環境で利用できるようにしたもの。現場の合成化学者が手元で直接使用して研究活動を効率化することができる。合成経路を視覚的に探索できる“合成計画”など、ユニークな新機能も搭載されている。

 新サービスのReaxysで統合されたバイルシュタインとグメリンは、冊子体のハンドブック時代からの長い歴史があり、バイルシュタインは1771年以降の1,000万以上の有機化合物の構造・反応・実測物性値・薬理活性・環境毒性データなどを、グメリンは1772年以降の250万以上の無機化合物・有機金属化合物の物性・構造・合成法などの情報を収録している。

 特許情報については、1980年まではバイルシュタイン内に収められているが、新しい情報はPCDがカバーしている。PCDには、米国特許商標庁(USPTO)、ヨーロッパ特許庁(EPO)、世界知的所有権機関(WIPO)から450万以上の化合物の構造・反応・物性値がまとめられており、実験項やスペクトルデータも収録している。

 従来、この3つのデータベースへのアクセスは、専用の検索ソフト「CrossFire Commander」によって行われていたが、このソフトは高機能だが、一般の研究者には操作が難しいという指摘があった。そこで、今回のReaxysの製品化に当たっては、製薬・化学の大手企業、大学・研究機関の学識経験者らからなるアドバイザリーボードを組織。ユーザーニーズを汲み上げながら開発を進めた。実際の開発では、米・英・アジアの13機関が開発パートナーとなったが、日本からは富士通などが協力したという。

 さて、新しいReaxysだが、有機化学、無機化学、有機金属・錯体の世界最大のファクトデータベースとしてのコンテンツの強みを、ウェブベースの直感的で使いやすいインターフェースと便利な機能によって、最大限に引き出したものだといえる。

 とくにユニークなのが“合成計画”の機能。バイルシュタインはもともと豊富な反応情報を収録しており、化合物の生成物や前駆体を検索して合成方法の検討に役立てることが大きな武器となっていた。Reaxysの合成計画機能は、これをビジュアルかつ容易に行えるようにしたもの。目的とする化合物を出発点に、逆合成的に前駆体を検索して、合成ルートを次々に図示していくことができる。反応条件も同時にテーブル表示されるので、収率の高いルートに組みかえることなども容易。合成ルート中の各化合物が試薬として購入できる場合は、フリーのeMoleculesまたはシミックスのACDへのリンクとしてアイコンが表示されるので非常にわかりやすい。

 検索は、化学構造式や化合物名、CAS番号などで簡単に行うことができる。構造式作図は、ブラウザー内にフリーのjava版エディターMarvinSketch(ケムアクソン社)を組み込むことができるほか、ISIS/DrawおよびSymyxDraw(シミックス社)、CrossFire Structure Editorの専用プラグインが用意されている。ChemDrawについても近日対応の予定だという。

 検索で興味深いのは、Googleで調べるときのようなフレーズ検索に対応していること。自然語に近い感覚で質問文(例えば、Dichloro-biphenyl-4-olを合成する方法は?)を入力することができ、システム側がフレーズ(単語の集まり)を構文解析して、化合物がヒットすればその構造式を検索画面の構造式ボックスに返してくれる。さらには、キーワードの入力ミスを検知して正しい候補を示してくれる“もしかして”機能も年内に実現する予定。まさに、現場の合成研究者がGoogle感覚で手軽に使えるツールを目指しているようだ。

 サービスの提供形態は、定額のコーポレートライセンスが主体でユーザー数は無制限。中堅企業でもリーズナブルな料金で制限なく利用できるようになっているという。コンテンツの更新も、バイルシュタインの年間4回に比べて、毎月更新と速くなっている。CrossFireのサービスは2010年に終了する予定で、同社ではReaxysへの切り替えのサポートに万全を期している。

Reaxysでの改良点

資料:エルゼビア・ジャパン

  Reaxys CrossFire
ソフトウエア ウェブアプリケーション クライアントサーバーアプリケーション
インストール 必要なし PCへのインストールが必要(Commander)
使いやすさ 簡単操作:タスク中心(フィルター、分析、ランク) ユーザートレーニングが必要:機能中心(グルーピング、ソートなど)
コンテンツ 3つのCrossFireデータベースを統合 Beilstein、Gmelin、Patent Chemistry Databaseに分かれたデータベース
データ 標準化・規格化されたデータフィールド(同一フィールド名・単位・フォーマット) 同じ物質特性でもそれぞれのデータベースに異なるデータフィールド名やフォーマットが存在
サーチメニュー ユーザー中心に設計された検索フィールド(反応・化合物・引用文献) すべてのデータフィールドを提示。入り組んだ何百種類のデータフィールド
結果表示 表形式表示:重要なフィールドのほとんどを表で表示;必要に応じてフィールド付与可能 デフォルトの表示:すべてのフィールドのリスト形式;エクスポートのためだけの表形式、新しいエクスポート作成が難しい
合成計画 合成計画ツール
操作システム マックのサポートあり マックのサポートはなし
アクセス インハウスバージョンはなし CrossFire Direct と CrossFire in-house