菱化システムが量子化学パッケージの最新版「ADF2010」をリリース

励起状態計算で光化学関連を機能強化、化学反応力場搭載MDソフトも追加

 2010.11.19−菱化システムは、蘭サイエンティフィックコンピューティング&モデリング(SCM)が開発した密度汎関数法(DFT)ソフトウエア「ADF」の最新バージョンを提供開始した。励起状態の計算機能が強化され、有機ELや光増感型太陽電池などの素材開発に応用できるようになったほか、新しいプログラムとして化学反応が扱えるユニークな分子動力学(MD)ソフト「ReaxFF」が追加された。ADFは代表的な汎用量子化学計算パッケージの1つだが、最近では計算手法の幅に厚みと広がりを持たせてきており、実用物性に近い領域の計算が可能になってきているという。

 最新版の「ADF2010」は、気体や液体、孤立分子系を扱うDFTプログラム「ADF」、固体や表面、ポリマーなどの周期系を扱うDFTプログラム「BAND」、ADFのポスト計算プログラムとして熱力学物性を予測する「COSMO-RS」、そして今回の新製品である反応分子動力学計算プログラム「ReaxFF」などから構成される。もともとは、オランダのアムステルダム自由大学で開発されたもので、30年以上の歴史を持つ。

 今回の最新版では、ADFとBANDとも基本機能が強化されており、とくにADFでは溶媒効果を取り入れた計算を可能にする“3D-RISM法”の導入が話題になっている。日本発(分子科学研究所の平田文男教授らが開発した手法)の技術が組み込まれたことで注目が集まっているようだ。また、BANDでは計算の高速化が図られた。表面への吸着などの現象を解析する際、他のプログラムに比べて化学者にわかりやすい視点で扱えるために人気が高いという。

 さて、今回のバージョンアップの目玉である励起状態の計算だが、時間依存密度汎関数法(TD-DFT)が採用された。ADFとBANDは両相対論の計算にZORA法を採用しており、内殻電子を近似することなく全電子での計算が周期律表を通じて可能(イリジウムなどの重い元素にも対応)となる特徴を持っている。このため、TD-DFTとZORAを組み合わせることで、有機ELや光増感型太陽電池などの材料研究で有効となる光化学関連の計算機能が強化された。有機EL発光材料のスピン軌道相互作用を考慮したりん光発光寿命の計算などの適用例があるという。

 一方、今回から新たに追加された新プログラム「ReaxFF」は、化学反応を扱うことのできる反応力場を搭載したMDプログラムで、カリフォルニア工科大学のゴダード教授らのグループで開発が進められていたが、商品化は今回が初となる。今後、ポテンシャルパラメーターが拡張されるにつれて、適用範囲が広がっていくと期待される。現時点ではADFとは独立して利用するソフトとなっているが、将来的にはADFのアルゴリズムを使った遷移状態探索や、ADFと組み合わせたQM/MM法の採用なども検討されているようだ。


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