米CASと独FIZが「STN」に世界初の機能を搭載

特許情報からの数値データ検索が可能、範囲内の数値にも対応

 2011.11.10−米ケミカルアブストラクツサービス(CAS)と独FIZカールスルーエが共同で運用する科学技術情報データベース(DB)サービス「STN」が強化され、特許情報の全文から各種物性値などの数値データを検索する世界初の機能が搭載された。特定の物性データがある範囲内でクレームされている(請求項に記載されている)特許だけを検索したいといったニーズに簡単に対応できる。企業の知財戦略に役立つ強力な機能だとして注目を集めそう。

 多くの特許では、その権利範囲を指定するために物理的・化学的物性値が用いられている。例えば、「赤外線吸収無機粒子を0.001〜30重量%含有し、波長700〜2000nmにおける透過率の最小値が50%以下であり、かつヘイズが0.1〜5%である二軸配向ポリエステルフィルム」といった具合だが、特許DBでの検索はキーワードなどを用いたテキスト検索に限られるため、さまざまな論理演算子を用いたとしても、特定の数値データを満たす特許を引き当てるのは非常に困難なだけでなく、不可能な場合も多かった。特許中の数値は範囲で表現されていることが多く、その物性値や単位もさまざまで、記載方法も多種多様であることが、検索を難しくする原因だったという。

 今回、STNでは、特許全文に含まれる物性値を単位付きでスキャンし、検索可能な形式に加工した。30種類以上の物性を400以上の単位を使って検索可能で、異なる単位(メートル法とヤード法の違いなど)も自動変換される。各レコードの表題やクレーム欄をはじめ、すべての英語のテキストフィールドで数値検索が可能。

 実際のメリットとしては、特定の物性値のみを的確に検索できること、さまざまな単位で表記されたデータをまとめて検索できること、範囲で記載された数値データも引き当てられること、数値データの範囲指定をした検索ができること、数値を指定しなくても目的の物性データを有する特許すべてを一度に検索できること、などがあげられる。

 具体的な物性としては、面積、ビット、バイト、モル濃度、コンダクタンス、角度、密度、動的粘度、電気抵抗、エネルギー、力、周波数、動粘性率、照度、光束、光度、質量、磁界強度、質量流量、分子量、パーセント、水素イオン指数、電力、圧力、放射能、ばね定数、大きさ、表面張力、温度、時間、速度、角速度、体積、電圧−に対応。数値の範囲指定や大きい・小さい、以上・以下といった数値演算子が利用でき、キーワード検索と組み合わせることで、目的とする特許情報を効率良く探し出すことができる。

 検索例としては、「ガラス転移温度が100−200度Cのポリアミドがクレームされている特許を調査したい」、「発光ダイオードの照度について具体的な数値がクレームされている特許を調査したい」、「樟脳の組成比がクレームされている医薬の組成物特許を調査したい」などが考えられるという。

 ファクトDBを利用すれば数値検索は簡単だが、逆にファクトDBでは特許情報が網羅されていないため、特許DBで数値検索ができるようになった意味は大きい。11日まで東京・北の丸の科学技術館で開催されている「特許・情報フェア&コンファレンス」で実際にこの機能を体験することができる。

 現在、STNで利用可能なDBの中でこの物性値検索に対応しているのは、世界知的所有権機関(WIPO)に国際出願された特許情報を集めた「PCTFULL」、オーストラリア特許庁が発行した公開特許および登録特許の全文を収録した「AUPATFULL」、同様にカナダ特許庁が発行した全文特許情報を収めた「CANPATFULL」の3つ。今後も継続的に対応するDBの種類を増やしていく。

 なお、STNはCASとFIZカールスルーエが共同で運営し、日本では化学情報協会(JAICI)が代理店を務めている。DBへのアクセスや各種機能の利用はクライアントソフトの「STN Express」やブラウザーベースの「STN on the Web」を通して行えるが、来年には新しいソフトが登場することが10月下旬にアナウンスされた。全世界の顧客を代表するアドバイザリーカウンシルの意見を取り入れたかたちで開発されており、年内にはそのメンバーにアルファ版が提供されるという。

 新クライアントの詳細はまだ不明だが、特許情報の専門家にとっての作業効率の向上がポイントになっているとされる。プロジェクト指向のワークフロー、テキスト検索と構造検索の結合、検索式と検索結果の並行処理、結果のリアルタイム分析、システム上限の事実上の撤廃などの新機能が盛り込まれる予定だ。


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