菱化システムが「MOE」の最新版2011.10をリリース

3D-RISM法の実装で溶媒効果解析、FBDD/SBDD関連も機能強化

 2011.12.21−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の統合計算化学システム「MOE」の最新バージョン2011.10をこのほど国内でリリースした。たん白質の結合ポケット構造における水分子の配置を予測できる“3D-RISM法”が実装されたことに加え、フラグメントベースドラッグデザイン(FBDD)およびストラクチャーベースドラッグデザイン(SBDD)関連の機能も多数強化されている。MOEは1997年に日米で販売開始されて以来、来年で15周年となり、機能的にも円熟味を増しているのが現状。今後も着実な発展が期待されるという。

 MOEは、たん白質立体構造解析、分子間相互作用解析、分子シミュレーション、QSAR解析など、創薬および生命科学研究に必要なアプリケーションを統合したシステム。65万件の化合物データ、75万件の分子フラグメントデータ、PDBからの7万件以上のたん白質構造データのほか、抗体/キナーゼ/GPCRデータベースなど、豊富なデータコンテンツを備えていることも特徴。わかりやすいプログラミング言語“SVL”を利用した強力なカスタマイズ機能も人気を集めている。

 外部の計算エンジンとのインターフェースでは、MOEのGUIから外部ソフトを起動できるタイプ1、外部ソフト側からMOEの機能をバッチで実行させるタイプ2、外部ソフトの出力結果をファイル経由で読み込むタイプ3−の3種類の連携方法が可能。タイプ1では、入力ファイルの作成から解析結果の可視化までをMOE側で実行できるので、ユーザーにとっては最も使いやすい。具体的には、分子動力学計算で「NAMD」(イリノイ大学)、量子化学計算で「MOPAC7」(パブリックドメイン)と「MOPAC2009」(スチュワートコンピューテーショナルケミストリー)、「Gaussian」(ガウシアン)、「ADF」(サイエンティフィックコンピューティング&モデリング)、「GAMESS」(アイオワ州立大学)、ドッキングシミュレーションで「FlexSIS」(バイオソルヴ・アイティー)、「GOLD」(ケンブリッジ結晶学データセンター)、3次元構造出力で「CORINA」(モレキュラーネットワークス)、画像・動画出力で「POV-Ray」(オープンソース)、「MPlayer」(オープンソース)に対応している。

 タイプ2は、外部のワークフローソフトからMOE/batchを実行する使い方で、「KNIME」(ナイム)、「InforSence」(IDビジネスソリューションズ)、「Pipeline Pilot」(アクセルリス)が対象となる。タイプ3はファイル経由での連携で、一例として「ダイレクトフォースフィールド」(イーオンテクノロジー)で作成した力場パラメータを使ってMOEで分子シミュレーションを実行したり、「OMEGA」(オープンアイ)による配座解析をベースにMOEでファーマコフォア検索を行ったりするなどの連携が可能。

 さて、今回のMOE 2011.10で最も注目されているのが“3D-RISM法”(3D Reference Interaction Site Model)の実装。同社によると、最近ではたん白質とリガンドとの結合に関係した構造周辺での溶媒効果を考慮する計算に注目が集まっており、静電マップ(現行のMOEに搭載)、半連続体モデル(オープンアイのSZMAP)、分子動力学計算(シュレーディンガーのWatermap)、モンテカルロ法(FEP法を用いたジョーゲンセン博士らの手法)などがあり、後者ほど精度が高くなるが、それにともなって計算量が膨れ上がるという問題があった。

 3D-RISMは、密度汎関数に基づいた液体の統計力学理論で、溶質(この場合はたん白質やリガンドあるいはその複合体)に対する溶媒分子(この場合は水)の密度分布と溶媒和自由エネルギーを算出することができる。モンテカルロ法や分子動力学法のようなシミュレーションが不要なため速度も速い。

 実際には、溶質の立体構造から各座標の水の密度を計算し、水和構造を予測。各座標の水和水の結合自由エネルギーを算出する。溶質の近傍に水がどのように存在するか、エネルギーが安定なところはどこか、また水がたん白質とリガンドの相互作用にどのようにかかわっているかなどを視覚的に評価することが可能。密度の値をスライダーバーで変化させることによって、最近傍の水だけでなく、少し離れた2層目、3層目の水分子の存在範囲も連続的に把握できる。

 一方、FBDD関連の機能強化では、受容体ポケット構造内でコンビナトリアル合成を行う新機能が搭載された。構造最適化計算とスコアリングを含めた統合ツールで、置換基をいくつかの反応点に結合してポケット構造にフィットさせたコンビケムライブラリーを構築することができる。

 SBDD関連では、シーケンスエディターが刷新され、複数のたん白質と複合体の配列情報の操作性と視認性が向上した。また、コンセンサスモデルに基づくアラインメント機能として、新たに多数決による2次構造コンセンサスが追加されている。ドッキング解析に関しても、新たなスコアリング関数が導入されるなど、さらに高精度化が図られた。

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 菱化システムでは、CCG社の別製品として、たん白質立体構造データベースシステム「PSILO」も販売している。単独でも利用できるが、MOEと連携させてさらにパワフルな生命科学研究基盤を構築できる。

 プロテインデータバンク(PDB)からの自動更新機能を備えたデータベースシステムで、PDB形式でインハウスデータを統合して、データのバージョン管理を行いながら社内で気兼ねなく活用することが可能。

 ウェブベースのシステムで、Googleライクなテキスト検索、リガンド構造/部分構造/類似構造検索、たん白質とリガンドの3D相互作用検索、類似ポケット検索、配列アノテーション検索などの多彩な検索機能を備えている。また、PDBファイル内のすべてのレコードを見やすく整理して表示できるほか、電子密度や活性サイトの2D/3Dグラフィック表示、たん白質立体構造に重ね合わせての検索結果表示、特定部位のハイライト表示などの機能を持つ。

 PDBデータは週ごとに自動更新され、新規配列に対してBLASTなどの計算が自動的に適用されて格納される。ソースコードで提供されるのでメンテナンスも容易。

 PSILO側からMOEを起動できるほか、MOEに付属している抗体/キナーゼ/GPCRデータベースを自動的に更新することが可能になる。アノテーションの自動計算やインハウスデータのMOEへの組み込みも、PSILOを介して簡単に行える。

 最新版のPSILO 2011.09では、3D相互作用検索結果を統計解析する機能が追加された。距離、結合角、二面角を計算し、その結果をヒストグラムに表示することができる。たん白質のクラス分類の結果をヒストグラム化することも可能。


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