菱化システムが統合分子モデリング最新版「MOE 2013.08」をリリース

複合体中の水分子の位置や向きを予測、ループ構造モデリング機能など強化

 2013.12.13−菱化システムは、生命科学向けの統合分子モデリングシステム「MOE」の最新バージョンである「MOE 2013.08」を国内でリリースした。カナダのケミカルコンピューティンググループ(CCG)が開発しているシステムで、1997年以来の長い歴史がある。製品としてはかなり成熟しているが、毎年ユーザーの要望をきめ細かく取り入れてバージョンアップされており、今回の最新版でもバイオ医薬品開発などの新しい研究テーマに合わせた機能強化が実施されている。ライセンス体系がシンプルなことも特徴で、保守費用だけで新しいプログラムをすべて利用することが可能。

 「MOE」は、分子モデリング/シミュレーション、ケムインフォマティクス、ファーマコフォア解析/FBDD(フラグメントベースドラッグデザイン)、バイオインフォマティクス、受容体構造に基づくSBDD(ストラクチャーベースドラッグデザイン)−の各機能を統合したシステム。SVL(サイエンティフィックベクターランゲージ)と呼ばれる開発環境を用いて独自の拡張を容易に行うことができる。この機能を用いて、菱化システムでは、受容体と低分子のドッキングプログラム「ASEDock」や遺伝的アルゴリズム(GA)に基づく構造活性相関モデル構築ツール「QuaSAR-Evolution」などの拡張プログラムを提供している。

 さて、今回の「MOE 2013.08」では、溶媒効果を考慮した計算として注目されている“3D-RISM法”(3D Reference Interaction Site Model)に関連した機能強化が大きなポイント。薬物と受容体との結合部位周辺における水の影響を解析することが可能だが、プログラムの64ビット化によって使用できるメモリーが増え、たん白質の全長や分子間相互作用境界面などにも適用が広がった。

 また、新たに提供された水分子配向プログラムは、水の酸素原子と水素原子の確率密度を求め、水分子の向きを考慮した水分子の配置を予測することが可能。実際にPDBのX線結晶構造データとの比較検証を行い、とりわけ結晶水の配置が正しく予測できていることを確かめたという。これにより、水との相互作用をより正確に考慮できるため、ユーザーの関心は非常に高いということだ。(左写真参照)

 一方、バイオ医薬品開発に役立つ機能としては、たん白質ループ構造モデリング機能が注目される。データベースを活用してループ配座を探索する経験的手法に加え、“de novo ループサンプリング”が搭載され、複数の手法を組み合わせて効率的なたん白質モデリングが行えるようになった。新手法では、FCCD(Full Circular Coordinate Descent)アルゴリズムによってループを構成するアミノ酸残基の二面角や結合角を最適化し、BBQ(Backbone Building from Quadrilaterals)法で主鎖を再構築したあと、側鎖構造を追加してループの全体構造を組み立て、最終的なスコアを計算する。この複合的ループモデリング機能は、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)によって操作性も高い。

 とくに、融合たん白質の構築では、リンカーモデリング機能が便利。抗体の重鎖や軽鎖をつなげるリンカーを対象に、残基数を変えながら安定なリンカーとなるループ構造を探索することができる(右写真参照)。同時に、ループアンサンブルにおけるたん白質物性の計算などの機能も強化されている。

 そのほか、ファーマコフォア解析機能も一段と強化された。拡張ヒュッケル法(EHT)を用いた非結合モデルが新たにファーマコフォアに適用されるようになり、各原子のドナー性/アクセプター性の強さを計算することが可能。EHTの採用により、第一原理的なアノテーション割り当てができることや置換基の効果を考慮できること、さまざまな分子系に対応できること、弱い相互作用も一貫性のあるスコアリングで評価できるなどのメリットがあるという。

 「MOE 2013.08」はこれら以外にも多くの機能強化が実施されているが、細かなところではデータベース(DB)ビューアーがさらに便利になったことがあげられる。MOEには65万件のリードライク化合物DB、ChEMBLから作成した83万件の分子フラグメントDBのほか、8万件以上の全PDB構造データ、抗体DB、キナーゼDB、GPCR DBなど豊富なコンテンツが搭載されている。それら大量のデータをスプレッドシートのイメージで高速に扱うことが可能。新しいビューアーでは、データフィールドを色付けしてわかりやすく表示できるようになった。数値のレンジや境界値、他のフィールドとの連動など、さまざまな設定で色分けすることができるため、ポイントが一目でわかるという。







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<関連リンク>:

菱化システム(科学技術システム事業部のトップページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/index.html

菱化システム(MOE 製品情報ページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/ccg/index.html


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