2014年冬CCS特集:第1部総論(業界動向)

トータル志向で巨大化・再編進む

 2014.12.04−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、化学物質を中心にした生命科学および材料科学領域の研究開発を支援するためのIT(情報技術)ソリューション。研究で扱う各種情報の管理や、分子レベルで各種物性を予測する理論化学計算を主体に発展してきたが、多くのITと同様にポイントソリューションからトータルソリューション志向へとユーザーニーズがシフトするに従い、システムを提供するベンダー側も複合化・統合化が進んで、大きな業界再編が促されてきた。CCSの国内市場は、そうした海外ベンダーの製品を扱う代理店ビジネスが中心になっているが、国産ソフト開発も進展しており、とくに自動車やエレクトロニクスなどの国際競争力を持つ産業における材料研究がターゲットになっている。

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◆◆頻発する買収合併、クラウド技術に注目◆◆

 グローバルなCCS市場の構図は、巨大化した米国勢が支配力を強めているのが現状。1990年代までは英国のオックスフォードモレキュラーとケンブリッジモレキュラーが周囲の欧州勢を巻き込んで、当時の米国勢に対抗する勢力を形成していたが、2000年までに相次いで米モレキュラーシミュレーションズに買収されたのを最後に欧州発の巨大ベンダーは姿を消してしまった。ただ、欧州でも米国でも、独自の技術やアイデアをもとにベンチャーとして誕生する企業はひきも切らない。このため、そうした小規模なベンダーを買収の対象として、ますます米国勢は巨大化の一途をたどっている。

 とくに、今年の最大の話題は、1月末にPLM(製品ライフサイクルマネジメント)の大手である仏ダッソー・システムズがアクセルリスの買収を発表、5月に統合を完了し、新ブランド「BIOVIA」(バイオビア)を立ち上げたことだろう。ダッソーは「原子から薬剤まで、原子から航空機まで」のマルチスケールシミュレーションを実現しようという遠大な構想を打ち上げている。

 同社はもともと、航空機設計などのCADソフトで出発した企業だが、近年では多くのベンダーを買収し、幅広い業界を網羅する業種別ソリューションを充実させてきている。アクセルリスの買収もそうした戦略に沿ったもの。ただ、会社としては解散させておらず、旧アクセルリスは「ダッソー・システムズ・バイオビア」と社名を変えて存続している。やはりダッソーの傘下にある3次元CADベンダーのソリッドワークスも同様の扱いをされており、BIOVIAもある程度は独立したかたちで製品開発などを続けていくとみられる。

 アクセルリスは、計算化学/モデリング系の最大手ベンダーが、情報化学系の最大手として発展してきたMDL−シミックスと統合した存在であり、ダッソーに買収される以前も多くのベンダーを買収し、製品領域を広げていた。現時点で、最も幅広い製品ポートフォリオを持つのがBIOVIAであるといえるだろう。

 一方、シミックスに対抗する存在に成長していたケンブリッジソフトを買収してCCS関連事業を強化しているのが米パーキンエルマー。電子実験ノート(ELN)などで大きな実績を築いているが、買収・合併で医薬の創薬フェーズから開発フェーズへとソリューションを広げてきている。昨年の第4四半期にもWingu社を買収し、クラウド型のコラボレーションELNに進出した。

 古参のトライポスの流れをくむサターラは、オーナーがベクターキャピタルからアーセナルキャピタルに変わり、今年4月には新薬申請文書の作成サービスを提供するシンクロジェニックスを買収した。創薬向けの分子モデリングソフトに強いトライポス、非臨床から臨床研究領域で利用される薬物動態予測ソフトのファーサイト、ヒト臨床試験シミュレーション技術を持つシムシップの3ベンダーが母体で、製薬業向けの研究開発支援に特化している。

 また、今回の業界地図には記載していないが、薬物動態解析ソフトを手がける米シミュレーションズプラスが、9月に臨床試験を支援する米コグニジェンと合併した。これは、どちらかというと、サターラに近い路線を狙っているようだ。

 今年のそのほかの動きとしては、米アークスパンが5月に日本市場に本格参入した。完全クラウドベースでオープンイノベーション型の研究開発を支援するソリューションを提供している。パーキンエルマーが買収したWinguの「Elements」も同種のソフトで、BIOVIAもアクセルリス時代にコンチュアを買収して、同様のソフトを戦列に加えている。

 製薬企業の研究開発は、もはや社内だけで完結する時代ではなく、外部の大学・研究機関やバイオベンチャーとの協調、臨床開発などの受託機関との協業を基盤としたオープンイノベーション型に変化してきている。そうした背景のもと、クラウドソリューションは来年に向けて大きな動きをみせそうだ。

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◆◆国内ベンダーも新戦略、国産ソフトに名乗りも◆◆

 国内ベンダーについては、今年は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)グループの動きが目立った。1989年設立の国内でもっとも古くからのCCSベンダーであるCTCラボラトリーシステムズが、4月1日に社名をCTCライフサイエンスに変更している。略称は変わらずCTCLSだが、製薬業向けのソリューションに集中するコミットメントをあらわしたもの。

 いまで得意としてきた創薬研究分野に加え、製造、臨床、申請分野から、基幹系システム、営業・マーケティング系システム、インフラまで、製薬業の顧客全体の業務をカバーできるように事業領域を広げていく計画。今年は、製造や品質関連の規制対応ソリューションで活発な動きをみせている。

 またCTC本体も、10月にナノ材料設計をターゲットにしたモデリング&シミュレーションシステムに進出した。これは、自動車などの機械系CAEソリューションを扱う科学システム事業部が自社開発したパッケージソフト「Nanoveats」(ナノビーツ)。実際には外部の計算エンジンをナノ材料設計用途で利用するためのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)で、第一原理計算の「VASP」と「ABINIT」、分子動力学計算の「LAMMPS」に対応している。

 近年、材料シミュレーション分野ではいくつかの国産ソフトがつくられており、経済産業省プロジェクトをベースに製品化されたJSOLの「J-OCTA」、文部科学省プロジェクトがベースのアドバンスソフトの「Advance/PHASEA」などが登場したが、国家プロジェクトを出自としない国産CCSは最近ではかなりめずらしい。富士通の「SCIGRESS」とよく似たコンセプトを持つが、今後の展開に期待したい。計算エンジンのチョイスは当を得ており、大化けする可能性もあるだろう。

 さて、今年に新しく日本市場に紹介された製品をいくつかあげると、菱化システムがスイスのネビオン社のバイオマーカー探索用バイオインフォマティクスツール「GENEVESTIGATOR」と、米コラボレーティブ・ドラッグ・ディスカバリーのクラウド型ELNソリューション「CDD Vault」、CTCLSが米アピストリーの次世代シーケンサー向けデータ解析ソフト「GATK」の販売権を取得している。

 海外ベンダーの国内での新製品としては、アークスパンのクラウド型ソリューション「ArxLab」、サターラの研究データ統合ソリューション「D360」などがあげられる。

 来年も多くの新製品、新サービスが登場するはずで、CCSベンダー各社の動きはますます活発になるだろう。


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