NIMSが“材料インフォマティクス”でプロジェクト実施

産学官の英知を結集、磁性材料・蓄電池材料などに適用へ

 2015.06.13−物質・材料研究機構(NIMS)は11日、材料開発の新潮流として注目されている“材料インフォマティクス”のためのプロジェクトを発足させると発表した。科学技術振興機構(JST)の「イノベーションハブ構築支援事業」の1つに採択されたもので、「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MIII)の名称で推進される。プロジェクト期間は5年間で、7月から正式にスタートする。

 “材料インフォマティクス”は、2011年に米国のオバマ大統領の旗振りで開始された「マテリアルゲノムイニシアチブ」を発端に注目を集めているもの。実験、理論、計算に次ぐ第4の科学として「データ」に注目し、材料研究をデータ駆動型に変革させることを目的としている。材料科学は対象となる物質の組み合わせが膨大であり、わずかな組成の変化が材料全体の特性を大きく変えるため、設計に関しては経験的なアプローチが主流。とくに、実験・理論・計算が十分な有効性を発揮していない物性予測について、ビッグデータを使ったデータ駆動型のアプローチでその実現に迫ろうという発想がもとになっている。米国のプロジェクトでは、材料開発期間を半分に短縮するという目標が設定されているようだ。

 NIMSは、わが国の物質・材料研究の中核的機関であり、世界最大級の物質・材料データベース「MatNavi」を管理・運営している。ただ、既存のデータベースはビッグデータ解析を前提として整備されていないため、データの内容はもとよりその収集方法・提供方法もこれまでとは大きく変わらざるを得ないと考えられる。その上で、膨大なデータ群の蓄積、最先端のデータ科学・情報科学の取り込みなど、大胆な新手法構築やデータベースなどの基盤整備が必要であり、産学官の力を結集し、集中的に取り組むことが必要になってくるという。

 そこでNIMSでは、昨年10月に専門組織「マテリアルズ・インフォマティクス・プラットフォーム」を設置し、取り組みを開始してきていた。今回の「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MIII)では、この戦略を推進するため、クロスアポイントメント制度(研究者が大学、公的研究機関、企業の中で2つ以上の機関に雇用されつつ、それぞれの機関における役割に応じて働くことを可能にする制度)を活用しながら、産学官の人材を寄せ集めるなどして体制充実を図る方針。

 とくに、材料インフォマティクス向けの使いやすいデータベース構築を進めながら、最先端の情報科学・データ科学の材料開発への実装を図り、産業界における課題やニーズに対する有効なソリューションを短期間で開発・提供することを目指していく。具体的な課題として、社会的な波及効果の高い磁性材料・蓄電池材料・伝熱制御材料などへの適用を考えているという。

 将来的には、広範囲の物質・材料系へ展開し、人工知能の基礎技術などを取り込みながら、情報統合型の物質・材料開発システムをプラットホーム化することを見据えている。同時に、データ駆動型の物質・材料研究手法の開発・蓄積・普及と、それに関わる人材育成を組織的に展開し、イノベーションハブとしての持続的発展に向けて取り組んでいくとしている。

 データは民間からも精力的に集める考えだが、企業秘密にかかわる場合もあり得るため、データによって公開するか、一定の範囲以内だけでシェアするか、当面は非公開にするかなどデリケートな扱いが求められる。また、失敗などのネガティブデータも重要になるため、データ収集の自動化や研究者の意識改革なども場合によっては必要になりそう。いずれにしても、先行する米国にどこまで追いつけるか、プロジェクトの行方と成果が注目される。

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<関連リンク>:

物質・材料研究機構(トップページ)
http://www.nims.go.jp/

物質・材料研究機構(MatNaviのトップページ)
http://mits.nims.go.jp/


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