アスムスが材料シミュレーター「matelier」の機能を拡張

複数の外部プログラムと連携、PHASE/0の新たな適用領域開く

 2015.07.01−アスムス(本社・東京都品川区、宇佐見護社長)は、原子スケール材料シミュレーター「matelier」(マテリエ)の製品戦略を強化し、第一原理バンド計算ソフトウエア「PHASE/0」を核にしつつ、外部プログラムと連携させて機能の拡張を図る方針を固めた。古典分子動力学ソフト「LAMMPS」、半古典輸送係数計算プログラム「BoltzTraP」、最大局在ワニエ関数解析プログラム「Wannier90」などを組み合わせる。国プロの開発成果であるPHASE/0の活用を促進する意味でも注目される。

 PHASE/0は、文部科学省の「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」(RISS)などの一連のプロジェクトを通して開発されてきた国産ソフトで、現在は「PHASEシステム研究会」を中心とする新たな体制で開発が続けられている。アスムスは、実際に国プロジェクトにかかわってきた技術者らが設立した企業で、商用版を「asms/PHASE」として販売・サポートしてきていたが、PHASE/0を解析エンジンの基盤にしつつも幅広い対象を扱う材料設計支援システムに発展することを目指して、今年3月に「matelier」として製品体系をリニューアルした。

 matelierはPHASE/0を利用するためのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を備えており、エネルギーやスピン分極、原子に作用する力、状態密度の計算を基本として、安定な原子配置や電荷分布密度、バンド構造図、フェルミ面(等エネルギー面)などの空間量を解析できる。また、電子状態解析や第一原理分子動力学計算、ナッジドエラスティックバンド法による遷移状態探索などの機能を持っている。さらに、公開版のPHASE/0に対する独自の付加機能として、ラマンスペクトルの予測(ピーク位置と強度)が可能。

 これに加え、今回、外部プログラムとの連携機能を取り入れることにした。まず、米サンディア国立研究所で開発されたLAMMPSは、PHASE/0の前処理で活用することができる。入力ファイルを作成しづらいアモルファス構造などをLAMMPSによる分子動力学シミュレーションで準備し、そのデータをもとにPHASE/0で構造最適化計算を実行するといった使い方になる。同社では、LAMMPSで使用できるReaxFFポテンシャルを用いて、妥当な水和構造が作成できることも確認しているという。

 一方、BoltzTraPはボルツマン方程式に基づいてバンド構造から輸送係数などを計算するプログラム。とくに、ゼーベック係数を求めることができるため、PHASE/0からBoltzTraPへ連携を取ることで、熱電材料の研究への適用が可能になる。PHASE/0の後処理用のスクリプトを用いて、BoltzTraPにデータを受け渡すことができる。

 また、Wannier90を利用すると、PHASE/0で計算した電子状態からタイトバインディングハミルトニアンを導出し、それを対角化することによってバンド構造図やフェルミ面を求めることが可能。PHASE/0だけでもその機能はあるが、Wannier90と連携した方が処理速度が速い。無機結晶や有機分子結晶に対応できることが確認できているが、さらに磁性を持つ物質やスピン軌道を含む系への対応を図っていくことにしている。

 なお、matelierの価格は使用するコア数による年間ライセンスで、年間80万円から。今回の外部プログラムについては、保守契約の範囲内でいくつかサポートすることも可能だという。

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アスムス(トップページ)
http://www.asms.co.jp/


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