菱化システムが最新版「MOE 2016.08」をリリース

SAR向けウェブアプリを大幅強化、抗体医薬研究など効率化する機能も

 2016.12.15−菱化システムは、加CCG社の統合計算化学システム最新版「MOE 2016.08」をリリースした。SAR(構造活性相関)のための「MOEsaic」が大幅に機能強化されたほか、抗体モデリング関連など、低分子から生体高分子まで幅広く多くの機能が追加された。また、パワーポイントへの3次元モデルの埋め込みや3Dプリンター用フォーマットでの出力など、プレゼンテーション向けでもかなり使いやすくなっている。

 MOE 2016.08は、容量の大きいデータベースをウェブサーバーに置くことによって、クライアントマシンへのインストールサイズを小さくすることができるようになった。フルインストールでは4.4GBのディスク容量が必要だったが、0.56GBで収まるようになったため、ディスク容量の小さいノートPCでも楽に利用可能で、管理者にとってはインストールや配布の手間も小さくなる。

 機能面の強化としては、MOEsaic関連が大きい。これは、MOEのウェブインターフェースを用いて、化学データを表示・解析・デザインするSAR用アプリケーションで、メディシナルケミストが直観的に扱えるように、部分構造・類似構造検索、化合物アラインメント、フィルタリング、プロット表示、Rグループ解析、MMP(マッチドモレキュラーペア)解析などの機能を統合したもの。

 全体は、データ解析と閲覧を行うブラウズ機能、分子設計のためのデザイン機能、検索・解析したデータを利用して文書を作成するドキュメント機能から構成される。今回の最新版では、データを読み込んで自動的にMMP解析を実行し、シングルクリックでMMPクエリーを指定、MMPプロファイルで指定の変換を絞り込んだり活性と物性の差を解析したりする機能が強化されている。

 また、量子化学計算(Gaussian)結果をもとにしたNMRスペクトル解析機能として、これまでの13Cだけでなく、1H、15N、17O、31P、19FなどさまざまなNMRの化学シフトや結合定数が解析できるようになった。さらに、振動円二色性(VCD)スペクトル解析機能が追加された。Gaussianで求めたVCDスペクトルの表示、実験値との重ね合わせ表示と解析、個々の配座またはボルツマン分布で重み付けしたVCDスペクトル表示などが可能。

 一方、生体高分子関係では、自動抗体モデリングの際の配列指定として、FV(Variable Domein)、Fab(Fragment Antigen Binding Region)、Fab2(Fragment Antigen Binding Region Dimer)、rIg(Reduced Immunogloblin)、Ig(Immunogloblin)の要素が追加された。また、ファミリータンパク質の立体構造データを集めた「MOEプロジェクトデータベース」に抗体専用の機能が追加されたことで、抗体医薬の研究をより効率化させることができる。

 さらに、タンパク質の会合に関係する疎水性表面・荷電表面パッチの可視化機能を刷新した。これまでのタンパク質表面解析では、疎水性・親水性領域や、正電荷・負電荷領域が表面上に広がってしまい、どこが重要な部位かを検出するのが難しかった。新しい表示は、より高い物性値を示す領域のみを際立たせるため、どこに変異を導入すれば溶解度を向上させられるかなどの検討を簡単に行うことができるという。

 そのほか、MOEにはSVLライブラリーに豊富なアプリケーションが公開されており、それらも活用することができる。その中には菱化システムが開発・提供しているものも多いが、今回の最新版リリースに合わせて自動3D-QSAR解析ツール「AutoGPA」もバージョンアップされた。3D-QSARは、化合物が標的に結合する際の配座(活性配座)を仮定し、その3次元空間上で分子記述子を利用したQSAR解析を行う手法。分子記述子に静電ポテンシャルとファンデルワールスポテンシャルを利用する“CoMFA法”がよく使われる。 AutoGPAは、活性配座が不明でも、活性化合物の活性値と安定配座から自動でファーマコフォアベースの分子群の重ね合わせ、CoMFA法による相関式の構築、スクリーニング、リガンドデザインまでを行う機能があり、MOEユーザーに広く利用されてきている。

 今回のバージョンアップでは、3D-QSARの分子記述子に立体的、電荷的、疎水的な特性を利用する新しい“CoMSIA法”に対応。これは、CoMFA法に比べて、格子点の値が発散しないため予測値の大きなずれが生じにくいこと、分子の重ね合わせのずれに予測値が影響されにくいことなどの利点があるという。

 社内のテストでは、X線結晶構造とよく一致していること、活性配座を使ったCoMSIA法と同等の精度が出ていることを確かめたという。












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<関連リンク>:

菱化システム(科学技術システム事業のトップページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/

菱化システム(MOE 製品情報ページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/ccg/

菱化システム(MOE用SVLプログラム集のページ)
http://www.rsi.co.jp/kagaku/cs/ccg/support/svl/2015_program.html


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