文科省プロジェクト「MI2I」が推進体制を大幅強化

研究グループを再編・新設、DB拡充も着々

 2017.09.22−情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I、エム・アイ・スクエア・アイ)は、プロジェクトの3年目に入り、推進体制を大幅に強化した。13日に開催された「第5回MI2Iフォーラム」で公表したもので、マネジメントチームに加え、実際に研究を行うグループも再編・拡充されている。また、材料インフォマティクス(MI、マテリアルズインフォマティクス)のための基本的なデータ源となる物質・材料データベース「MatNavi」も充実し、来年度からは有償でのサービスに乗り出す計画も温めている。

 MI2Iは、文部科学省プロジェクトとして、科学技術振興機構(JST)イノベーションハブ構築支援事業の枠組みで、2015年7月から(5年間)物質・材料研究機構(NIMS)をハブ拠点として推進されている。NIMSは、2017年度からの新体制として、MI2Iを包含したかたちで物質・材料開発のあり方を革新する「統合型材料開発・情報基盤部門」(MaDIS)を設立。革新的材料開発力強化プログラム「M3」(エムキューブ)をスタートさせ、「MOP」(マテリアルズオープンプラットフォーム)、「MGC」(マテリアルズグローバルセンター)、「MRB」(マテリアルズリサーチバンク)からなる新体制で動き始めている。

 M3において、MOPは産業界と研究機関によるオープンイノベーションを推進する枠組み、MGCは世界中の人・モノ・資金を集める国際研究拠点を意味する。一方、MRBはこれらの活動を最大化するための研究基盤技術を提供することが使命であり、MI2Iは主にここと関係するかたちになっている。

 さて、2017年度からのMI2Iの推進体制としては、まずプロジェクトリーダーだった寺倉清之氏(NIMS)がエグゼクティブアドバイザーとなり、プログラムマネジャーだった伊藤聡氏(NIMS)が新しいプロジェクトリーダーに就任、さらに新プログラムマネジャーに木原尚子氏(JST)を迎えるとともに、副プロジェクトリーダーのポストを増やすなど、マネジメントチームを拡充した。

 実際に研究開発を進めるグループは、旧体制では出口課題グループとして、「磁石・スピントロニクス材料グループ」「蓄電池材料グループ」「伝熱制御・熱電材料グループ」の3つが設けられ、そのほかに横断的グループとして「データ科学グループ」と「モデリンググループ」が、さらに基盤グループとして「データプラットフォームグループ」が組織されていた。これに対し、新体制では、適用領域を応用グループとして「磁性材料グループ」「蓄電池材料グループ」「伝熱制御材料グループ」に再編。大きく変わったのは横断的グループで、引き続きの「データ科学グループ」に加え、「トポロジカル解析グループ」「物質・材料記述基盤グループ」「マテリアルズ探索グループ」が新設されている。

 この組織変更は、実際に研究が進んで、優先すべき技術課題や具体的な研究の進め方が浮き彫りになってきたことを反映したものだという。例えば、材料の特徴を表現するためのディスクリプター(記述子)をどうするかという問題がある。有機低分子化合物では、薬物分野を中心に多くの記述子が使用されているが、材料分野ではまだまだ未整備な面が多い。とくに、高密度な粉体の構造・性質・適切な記述法が不明であるほか、革新的な新材料の多くは未踏領域に存在するため既存の周辺空間にデータが存在しないなどの難しい問題があるという。これら横断的グループでは、包括的な記述子ライブラリーの開発、各種ソフト・ツールの開発・連携を含めた研究が行われるようだ。

 一方、旧体制から継続している「データ科学グループ」も成果をあげており、モンテカルロツリー探索による複合材料自動設計パッケージ「MDTS」を開発した。すでに、材料の熱伝導率を最適化する問題に適用された実績がある。

 「データプラットフォームグループ」も組織的には旧体制からの継続となる。実際にMIを研究に使用するツールとしてのデータプラットフォーム(DPF)を今年2月からコンソーシアムメンバーなどに提供してきている。とくに、「MatNavi」で公開しているDBのうち、無機材料DB「AtomWork」、電子構造計算DB「CompES-X」、高分子DB「PoLyInfo」、拡散DB「Kakusan」、超伝導材料DB「SuperCon」、CCT線図DB「CCTD」の6種がAPI経由で接続され、DPFからこれらのデータにシームレスにアクセスすることが可能。

 MIでは質量ともに豊富なデータが要求されるため、データの増強に取り組んでおり、スイスのMPDS社(マテリアルフェーズデータシステムズ)との連携により、AtomWorkのデータ件数を数倍に増やした。これは、「AtomWorkアドバンス」(AtomWork-adv)と呼ばれ、MatNaviで公開中の無償版と比べ、結晶構造が8万2,000件から27万3,830件へ、状態図が1万5,000件から4万件へ、特性データが5万5,000件から29万8,000件へと増えている。無機系の結晶DBは海外の商用版もあるが、状態図や特性まで収録したものは少ないという。

 コンソーシアムメンバーは、DPFを介してすでにAtomWork-advを使用中だが、権利の関係で不特定多数に無償提供できないため、NIMSでは来年4月から有償でサービスする計画を進めている。

 過去には、PoLyInfoのデータを民間企業に一括で有償提供した実績もあり、MatNaviの一部を有償化することへの不安はないようだ。そのPoLyInfo自体もデータの追加を着々と進めており、最近では人手によるキュレーションに加えて、機械的な言語処理による自動収集方式も採用して、急ピッチでデータを増やしている。現在無償公開中のものと比べて大幅にデータが増えるため、こちらも有償化を検討しているもようである。

******

<関連リンク>:

情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(トップページ)
http://www.nims.go.jp/MII-I/

NIMS物質・材料データベースMatNavi(トップページ)
http://mits.nims.go.jp/


ニュースファイルのトップに戻る