シュレーディンガー日本法人が材料科学への取り組み強化

独自に研究・学会発表、Quantum ESPRESSOとも正式連携

 2017.09.01−シュレーディンガーは、国内で材料科学向けのモデリング&シミュレーションを強化する方針で、日本法人の技術サポート体制を強化。パッケージソフトとして、「Materials Science Suite」を提供しており、GPU(グラフィックプロセッサー)に対応した分子動力学シミュレーションで実績を増やしている。また、受託計算や受託研究などのニーズにも対応しているほか、社内で独自に研究も行い、その成果などを学会発表していることでも注目度が高い。

 同社は、7月27日に都内で「Materials Science Suite User Group Meeting 2017」を開催。この機会を利用して、社内の技術スタッフが実施した計算例を発表、プレゼンテーションした。

 1つ目は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に使われるエポキシ樹脂を対象にした物性計算の事例。CFRPは航空機や自動車の外装など風雨にさらされる用途が多いことから、含水状態での物性について知見を得ることは重要だとして、シミュレーションを実施したもの。

 まず、エポキシ樹脂は主剤にビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)、硬化剤はジアミノジフェニルスルホン(4,4'-DDS)の組み合わせで分子モデルを構築し、主剤と硬化剤の配合比の異なるパッキング(化学量論比での配合とエポキシ過多の場合)で複数のモデルを用意。密度も含めた平衡化を行ったあと、量子化学計算を用いた遷移状態探索による活性化エネルギーの見積もりを実施して架橋モデルを構築、架橋ネットワークの成長をシミュレーションした。こうしてられたエポキシ樹脂モデルに対し、グランドカノニカルモンテカルロ法(GCMC)と分子動力学法(MD)を組み合わせたシミュレーションによって水分子を挿入、吸水率を予測した。さらに、含水状態のエポキシ樹脂のガラス転移温度、線膨張係数、拡散係数、ヤング率などの物性計算を行い、吸水による変化を調べた。おおむね実験的事実に沿った結果が得られたという。

 2つ目は、コンビナトリアルケミストリーと遺伝的アルゴリズムに基づいた新規材料化合物の探索。次世代の有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子用の発光材料として注目される熱活性化遅延蛍光(TADF)を発する化合物を発見しようという目的で、まず既存の有機EL化合物をもとに原子置換によって発生させた新規化合物群に量子化学計算を行い、酸化還元電位でアクセプター性の化合物(16個)とドナー性の化合物(15個)を選び出した。さらに、それらをフラグメントとして、コンビナトリアルケミストリーの手法で化合物ライブラリー(4,740化合物)を構築した。

 一方、遺伝的アルゴリズムは、親世代の化合物の部分構造を交換して新規構造を創出し、特定の評価基準で望ましい物性の化合物を残し、世代を重ねながら物性のバランスに優れた新規構造を提案する方法。今回、S1-T1間ギャップが小さく、高エネルギー領域に特化した吸収が見込まれるものを優位と判断し、第10世代までの繰り返しによって212個のユニークな化合物構造を取得したという。自己組織化マップを使い、これらの構造の化合物空間を評価したところ、既存の有機EL化合物が狭い化合物空間に密集してるのに対し、コンビナトリアルケミストリーで発生させた構造は非常に幅広い多様性領域をカバー、遺伝的アルゴリズムで発生させた構造も既存化合物空間を拡張する広がりを持ちつつ、高い多様性を持つ領域へも展開していることが確認できたとしている。

 3つ目の研究事例は、有機エレクトロニクスデバイス中の有機−無機接合面の第一原理計算。有機と無機の界面は、無機材料に経験的計算方法が適用しづらいこと、表面構造をモデル化するために大きな膜厚と原子数が必要になること、有機分子の存在により表面構造が周期性を失うこと、有機−無機間のファンデルワースル相互作用を考慮する必要があることなど、計算化学の対象として難しい問題が多い。

 同社では、密度汎関数理論に基づく周期系対応の電子状態計算ソフト「Quantum ESPRESSO」とのインターフェースを開発。プログラムの開発元であるQuantum Espresso Foundation と正式に提携しており、利用者はシュレーディンガーからこちらのサポートも受けることができる。

 今回の研究事例では、有機LED陰極を想定したモデルに対し、Quantum ESPRESSOに加えて、第一原理分子動力学のESM法(有効遮蔽媒質法)を使用することで、電子状態シミュレーションによる表面構造の観察を行い、電子注入が効率化される機構を考察できたという。

 同社日本法人では、材料科学分野の受託計算や共同研究にも応じているが、今回の発表事例は社内の技術スタッフが独自に手がけたものが多く、学会発表などにもチャレンジしている。同社は生命科学分野での知名度が高いため、材料系での技術をアピールしてこちらの分野での存在感を高めようという意図がある。

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<関連リンク>:

シュレーディンガー(日本語トップページ)
https://www.schrodinger.com/jp/

シュレーディンガー(Materials Science Suite 製品情報ページ)
https://www.schrodinger.com/jp/suites/materials-science-suite


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