CCS特集2017年冬:総論第3部 バイオインフォマティクス

AI/機械学習の応用加速、人材育成が急務に

 2017.10.06−バイオインフォマティクスの解析対象が大きな変化をみせている。実験室レベルのゲノム読み取りが主流だった時代は過去となり、バイオ医薬品開発や治療・診断のための実際に役に立つオミクス解析へと応用が広がる中で、学際的な連携を基盤にしてより複雑な問題に取り組むケースが増えている。また、最近になって、ビッグデータや人工知能(AI)、機械学習といった先端の情報技術をこの領域に取り込もうという動きが加速。専門のバイオインフォマティシャンにはさらに幅広い知識と深いノウハウが求められるようになってきており、とりわけ若手の研究者・技術者の育成が喫緊の課題だと認識されつつある。

 最近わかってきたところによると、特定の遺伝子が原因になっているのは病気のわずか5%を占めるだけで、残りの95%は生体分子ネットワークのゆがみが病気を引き起こしているのだという。つまり、単一のターゲットに対する薬物分子の作用を解析するだけでは、病気に対する最終的な相互作用を把握することはできない。疾患や薬剤、生体分子に関係した階層的なネットワーク全体を読み解くような解析が必要とされている。

 また、医療現場では、発病前後の遺伝子プロファイル、投薬前後の遺伝子プロファイルを比較することにより、生体内部の変化を読み取り、病気を診断したり、治療の効果を定量化したりする用途でもバイオインフォマティクスが活躍している。とくに、メタボロミクス解析は、何らかの生体ネットワークが発現した結果としての代謝物を調べることができるため、医療においては欠かせない解析技術になってきているということだ。

 一方、AIや機械学習も、将来はバイオインフォマティシャンの仕事の範ちゅうに入ってくる可能性がある。例えば、医用画像診断の分野では、すでに機械学習によって人間の医師を上回る診断結果を示す場合があると伝えられている。画像関係は機械学習が得意とする領域であり、適材適所でさらに医療への応用は広がるだろう。

 また、創薬研究分野でも、機械学習を利用したAI創薬への期待が高まっている。これは、計算によって化合物とターゲットとの結合親和性を予測するなどのいわゆるIT創薬を拡張する考え方で、計算の代わりにAIによる予測に基づいて最適な薬物を探索・設計しようというもの。ただ、これについてはデータ不足が課題だとされている。画像を認識するAIは、数億枚の画像を学習したとされるが、化合物の活性データは世界中に数千万件しか存在しないといわれている。実用化はまだ先になるだろうが、学術レベルでは非常に研究が活発化しており、ブーム的な様相を呈しているという。

 いずれにしても、医療や創薬の現場でこれまで以上にデータ活用が重要になることは確かなことだ。機械学習は通常の統計学とは異なる手法が使われるため、データインフォマティシャンにとっては新たなスキルが要求される。新たな社会的ニーズに応えられる人材が必要とされている。


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