NIMSがMIで熱放射性能に優れた多層膜設計手法を確立

東京大学・新潟大学らと共同研究、80億通りから最適構造

 2019.01.29−物質・材料研究機構(NIMS)は、「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」(MI2I)などのマテリアルズ・インフォマティクス(MI)研究プロジェクトの最新成果として、東京大学および新潟大学、理化学研究所と共同で、機械学習と計算科学を組み合わせて世界最高クラスの狭帯域熱放射を実現する多層膜(メタマテリアル)を最適設計し、実験にて実証することに成功したと発表した。80億通りもの候補構造の中から、最適な物質と層構造の組み合わせを探索したもの。最終的に、人間が直感的には思いつかないようなナノ構造体が得られ、実際に優れた物性を示す結果になったという。

 今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授、新潟大学工学部の櫻井篤准教授、東京大学新領域創成科学研究科の津田宏治教授らの研究グループによって行われたもの。科学技術振興機構(JST)とNIMSが実施しているMI2I、ならびに理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)における文部科学省AIPプロジェクトによる研究課題のもとで実施された。

 物体が熱を電磁波として放出する熱放射現象は、波長制御ヒーターや赤外線センサー、熱光起電力発電などさまざまなエネルギーデバイスへの応用が期待されている。熱放射エネルギーを効率良く利用するためには、有用な波長帯での熱放射スペクトルを狭帯域化させることが重要で、電磁波を自在に操ることができるメタマテリアルをターゲットにした研究が盛んに行われている。ただ、経験的に構造を選択してそれを評価するという経験的・実験的アプローチが主流であり、最適なメタマテリアルを経験に頼らずに設計することは困難だった。

 今回の研究グループは、電磁波解析を用いた熱放射物性計算とベイズ最適化による機械学習を交互に実施することにより、膨大な候補構造から熱放射性能が最大になるメタマテリアル構造を高い最適化効率で決定することに成功。熱放射の大幅な狭帯域化を達成し、設計手法として確立したことが大きな実績となる。

 具体的には、機械学習の記述子として、メタマテリアル構造の最小単位(膜厚や材料の種類など)を採用し、全体の構造をその組み合わせとして考えることで、膨大ではあるが有限の探索空間を設定。3種類の材料を18層重ねて配置するとともに膜厚も変化させることで、約80億通りの候補構造を考えた。そして、まず数百個の候補構造をランダムに選択してそれらの放射率を計算し、その結果をベイズ最適化により解析。それをもとに熱放射性能指数が高いと見込まれる次の数百個の候補構造を決定し、再びそれらの放射率を計算。このように、候補選択と物性計算を繰り返してデータを数百個ずつ増やしていきながら、最良の熱放射性能指数を持つ構造を同定した。

 研究の結果、半導体材料(Ge)と誘電体(SiO2)の厚さ0.2〜1.0マイクロメートル程度の薄膜が、非周期的に6〜8層並ぶような非周期的なナノ構造が得られた。また、ターゲット波長を5、6、7マイクロメートルに設定し、実際にそのメタマテリアル構造を作製して熱放射スペクトルを計測したところ、従来の材料ではQ値(熱放射スペクトルの狭帯域化を示すパラメーター)が100を超えることは難しいとされていたが、Q値が200に迫る構造を見いだすことができたとしている。

 この研究成果は、材料やナノ構造のさまざまな組み合わせから最適なものを選択するという意味で、広い対象に適用できる可能性があり、ナノ材料開発における新たな手法としての発展が期待されるだろう。

 なお、詳細な研究論文は、1月22日、「ACS Central Sciencs」誌のオンライン速報版に、「Ultranarrow-band wavelength-selective thermal emission with aperiodic multilayered metamaterials designed by Bayesian optimization」のタイトルで掲載された。

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<関連リンク>:

東京大学大学院工学系研究科(熱エネルギー工学研究室のホームページ)
http://www.phonon.t.u-tokyo.ac.jp/

新潟大学工学部(光エネルギー工学研究室のホームページ)
http://www.eng.niigata-u.ac.jp/~rad/index.html


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