逆合成解析で合成ルート探索、「SciFinder-n」に新機能

効率性などを考慮しスキーム構築、新規物質対応の予測機能実装へ

 2019.09.20−化学物質および化学反応を網羅的に検索できる科学者向けサービス「SciFinder-n」に、人工知能(AI)を応用した逆合成解析による合成経路探索機能が追加された。現在は既知の反応ルールを当てはめているため新規物質の合成経路を予測することはできないが、有機合成化学者が文献を調査するなどの作業を大幅に軽減できるとして好評。SciFinder-nの操作の中で自然に利用できるため、「思ったよりも使いやすい」「全体の反応スキームがわかりので頭を整理しやすい」などの声が寄せられている。10日に開催されたSciFinderフォーラムでは今後の開発計画も説明され、未知反応の予測機能が年内にも利用可能になるという。

 SciFinder-nは、アメリカ化学会(ACS)の情報部門であるケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)が提供するサービスで、国内では化学情報協会が窓口となっている。とくに、複雑な検索テクニックを駆使することなく、Googleライクの検索で欲しい情報が簡単に得られることが特徴。すでに、世界で1,300機関が導入済みで、従来のSciFinderユーザーのうち、SciFinder-nしか使わなくなったという人が84%にのぼるという。科学研究のアーリーステージにおいて、30%の生産性向上・効率化が認められている。

 さて今回、SciFinder-nに搭載された逆合成解析ツール「Retrosynthesis Planner」は、ジョン・ワイリー・アンド・サンズが開発したChemPlannerをもとにした機能で、段階的に実装が進められている。現在提供されているものは既知反応に基づく合成ルート探索機能。既知(CASREACT)の一段階反応をもとにして全合成ルートを構築することができ、既知化合物であればその合成スキームを何通りも示すことが可能。反応ステップ数や収率などの効率性、根拠となる文献の総数、原子効率(廃棄量の少なさ)、出発物質の入手のしやすさ、コストなど、合成的知見に基づいた優先付けがされており、妥当なルートを容易に見つけ出すことができるように工夫されている。

 最終的な生成物を起点に、出発物質までのルートが枝分かれして画面表示され、それぞれの反応の詳細やその物質が購入可能な試薬であればカタログ情報をすぐに参照できる。試薬の価格は、1モル当たり1,000ドル以上かどうかが基準になっているようで、高価だったり入手しにくいものだったりすれば、自動的に逆合成を進めてさらにルートをさかのぼるように設定されている(トータル4ステップまで)。また、システム上ではすべての逆合成ルートを検索した上で、おすすめのものを画面上に示しているため、別の候補を指定することも可能。違う前駆体を選択すれば、表示中のスキームもすべてリフレッシュされる。画面上で代替ルートを探りながら、その反応の詳細情報、推定収率、価格、試薬の入手可能性などを確認できるので、非常に有用性が高い。

 ただし、現在は既知反応に限定されているため、新規物質に対しては回答が得られないこと、既知の合成ルートが最適とは限らないといった問題点もある。そこで、次のステップとして、既知の反応情報ではなく、本質的な反応ルールに基づいた逆合成予測機能を追加する。もともとのChemPlannerにある反応ルールを利用した予測機能を年内にも提供開始し、来年にはCASが持つ膨大な反応情報をもとに新たな反応ルールをつくり上げて予測機能を大幅にグレードアップさせる計画だ。

 逆合成予測については、反応ステップ数をいくつにするか、化学構造の中で切断したい結合や保護したい結合がどこか、さらに適用する逆合成ルールが、多くの文献に事例がみつかるコモンルール、コモンルールを含むアンコモンルール、コモンとアンコモンを含むレアルールにするかなど細かい設定が可能。また、予測のもとになったエビデンスを画面上で確認することができる。

 予測機能が有効になると、既知情報による逆合成と、予測による逆合成が混在した合成スキームを「Retrosynthesis Planner」で一気に提示できるようになる。既知ルートは赤、予測ルートは青と、色分けして示されるのでわかりやすい。また、研究者によっては好ましい反応のスコアリング基準が異なることがあるため、構造の複雑度の変化、反応バランス、効率性、原子効率、出発物質の入手しやすさ、コスト、実例の数など、優先したい要素を細かく設定できるようにする予定。

 現状の機能でもかなり使いやすそうで有効と思われるが、今後追加される逆合成予測がどこまで妥当な結果を示せるか注目されるところだ。

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<関連リンク>:

化学情報協会(SciFinder-nの紹介ページ)
http://www.jaici.or.jp/scifinder-n/


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