米アスペンテクノロジー:モールス ディレクター インタビュー

化学産業のDXを加速、持続可能性と収益のバランスを全体最適へ

 2019.10.02−アスペンテクノロジー(アスペンテック)は、化学産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を加速させる。企業経営においてSDGs(持続可能な開発目標)が重要視されるようになる中、持続可能性と収益のバランスを最適化することが注目されているため。同社が得意とするアセットパフォーマンスマネジメント(APM=資産最適化)を中心にソリューションを提供していく。同社の化学産業マーケティング担当ディレクター、ペイジ・マリー・モールス氏は、デジタル化の最終局面では人工知能(AI)の応用がカギになるとし、AIベンダーの買収を進めていることを明らかにした。

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 − 化学産業にとっても、デジタル化は重大な課題です。

 「いわゆるデジタルネイティブ世代が社会に出るようになり、2025年までにデジタル労働者が全体の75%を占めるようになると考えられている。また、多くの企業がSDGsを経営戦略に取り入れている。持続可能性目標と収益のバランスを取るためには、生産現場の安全性の向上、故障のない安定的な操業などを通じ、生産に用いるエネルギーを削減し、廃棄物や排出物の少ない効率的な生産を行う必要がある。環境に優しい装置やプロセスの開発、持続可能性の高い新材料の探索や製品設計も含めて、デジタル技術を活用することが不可欠。さらに、AIを導入して利益率を倍増させることも可能だ」

 − デジタル化の成熟度の段階をどう考えますか。

 「プログラマブルコントローラー(PLC)の導入を第1世代、デジタル1.0とすると、分散制御システム(DCS)がデジタル2.0、高度プロセス制御システム(APC)の利用がデジタル3.0、そしてAIの本格的な活用段階がデジタル4.0に当たると思う。この場合、1段階あがるごとに、生産性は3〜5%向上する。連続生産がメインの石油や石油化学の大手企業は、世界的にみてAI利用のフェーズに入ってきているが、品種を切り替えながら少量(特殊品)を生産する化学系企業はデジタル2.0の段階に留まっているところも多い」

 − アスペンテックが提供する解決策はどのようなものですか。

 「プラント全資産のライフサイクルを、設計(エンジニアリング)、運用(製造とサプライチェーン)、保守(装置パフォーマンス管理)の3つのステージで統合化する資産最適化(APM)ソリューションを中心に展開している。高度な設計によってプロセスのパフォーマンスを押し広げ、運転ではその限度いっぱいでの稼働を目指し、保守のステージでは実用的な洞察を利用してアップタイムを向上させる。とくに、実際の状況を反映させたデジタルツインから取り入れたデータを設計に活用することで、このライフサイクルをスムーズに回すことができる」

 − 先進顧客の事例をいくつかご紹介ください。

 「中国のSINOPECでは、ポリマー生産にAPCを適用することで生産量が3.4%増加し、リアクターの変動を70%低減、銘柄切替時のオフスペックを50%削減できた。欧州の石油化学メーカーでは、予知保全技術を導入し、エチレン1基当たり年間2日間のダウンタイムを回避、170万ユーロの損失を防いだ。そのほか、あるポリオレフィンメーカーは、AIを応用して中央バルブの故障を27日前に予測、タイのSCGケミカルは、新規HDPEプラントの設備コストを100万ドル以上削減、モメンティブ社はサプライチェーンソリューションの全社導入により、納期順守率を20ポイント向上し、供給リードタイムを40%短縮させた」

 − 日本企業に対する実績はいかがですか。また、日本の化学産業におけるデジタル成熟化はどのような水準でしょう。

 「日本企業が遅れているとは思わない。公表が許可されている例は少ないが、大手企業の多くは長年にわたりアスペンテックのソリューションを活用してくれている。ファインケミカルメーカーにおけるデジタル化の成熟度はさまざまだが、デジタル技術を十分に活用できていないケースもある。製薬関係については、原薬メーカーからも関心が高まっている」

 − デジタル4.0ではAIがポイントになるというお話ですが。

 「APMを構成するAspenMtellは、機械学習によって劣化や障害に至る運用データのパターンを見つけ出すシステムで、導入実績が増えている。これに加え、今年7月に新たに2つの企業を買収した。カナダのMnuboと英国のSabisuだ。MnuboはAI主導のIoTソリューションを迅速に構築するためのプラットフォームで、収集・分析した大量の情報とデータをビジュアライズするためにSabisuのシステムを利用する。これにより、設計から運用、保守までのライフサイクルを通して、継続的な改善のための知識収集の自動化と、データ駆動型の意志決定が可能になると考えている。アスペンテックは、ポイントソリューションでも優れた製品を提供しているが、すべてが統合できることが最大の強みだということを強調しておきたい」

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https://www.aspentech.com/


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