2021年冬CCS特集:特別編 バイオインフォマティクス

個別化医療・創薬応用が前進、核酸医薬開発にも貢献

 2021.10.12−現在、生物学の進歩のカギを握るのはデータ活用であり、まさにその意味でも生物学と情報学を融合したバイオインフォマティクスへの注目が高まっている。とくに、個別化医療や創薬応用など明確な目的をもった配列情報の解析がホットになっており、新しいソフト開発も進められている。

 次世代シーケンサー(NGS)の登場以来、遺伝子配列情報は急激に増大。この20年でデータ量は10万倍近くに膨れ上がっており、バイオインフォによるデータ処理・解析はまさに必須。遺伝子を読み取るコストも低下し、いまやパーソナルゲノムの解析が1,000ドルほどで可能だが、最近はわずか15ドルで読み取る技術の研究も行われているという。個人のゲノム情報をもとにした個別化医療が手に届くようになるのも時間の問題だろう。

 一方で、創薬への応用では、医薬分子が作用するターゲットタンパク質の構造解明が進み、活性ポケット周辺のアミノ酸配列をもとにした結合性評価などが盛んに行われるようになった。それに加え、新しい創薬モダリティとして注目されているのが核酸医薬やmRNA医薬だろう。バイオインフォ技術がこれにどう貢献するかだが、情報サービス産業協会が主催する「JISAアワード」において、今年のファイナリストに関連するソフトが選ばれた。

 これは、三井情報が開発した「AQXeNA」(アクジーナ)。質量分析データを自動解析し、試料に含まれる核酸を同定する機能を持っている。核酸医薬やmRNA医薬は人工的に合成された修飾核酸を使用するため、「想定した通りの核酸配列が合成されているか」「副産物や不純物がどの程度含まれているか」「保管や輸送でどのくらい配列が壊れるか」などの分析が必要。しかし、NGSは人工核酸に対応できず、配列内部の構造を解析することはできないうえ、存在量の少ない不純物の検出も難しい。

 そこで、同社は理化学研究所および東京都立大学の研究グループと共同で、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)およびタンデム型のLC-MS/MSのデータをもとに、核酸代謝物の同定・分析などの解析を行うプラットフォームとして「AQXeNA」を昨年に製品化した。多様な修飾核酸の内部構造にまで対応したデータベースを備え、機器メーカーの種類を問わずに自動的かつ迅速な解析が可能。すでに、国内で十数社への導入実績がある。今後は、ワクチン開発で関心が高いmRNAに対応した機能を強化するとともに、海外市場へも展開していく計画だ。


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