CCS特集2022年冬:モルシス

低分子創薬で新たな機能、巨大ケミカルスペース探索

 2022.12.01−モルシスは、創薬研究と化学・材料研究の両分野で、モデリング&シミュレーション(M&S)から研究所のデータ管理や情報共有、電子実験ノートまで、幅広いソリューションを提供している。来年に向けては、ニーズが高まっているM&Sを中心に、最新の技術や手法を反映させた研究支援ツールの提案に力を入れることにしている。

 同社は内外のCCSソフトを多数取り扱っているが、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の子会社としての位置づけもあり、統合計算化学システム「MOE」のアジア地域での販売・サポートを担当している。とくに、中国と韓国に正規代理店を置いているが、中国での実績が急速に拡大中。今年は、7月にCCGおよび中国代理店のクラウドサイエンティフィックとの3社共同でワークショップ&ウェビナーを開催したのに続き、10月のユーザー会「MOEフォーラム」はZoomを利用した日米中の3カ国同時通訳により開催。中国からの招待講演も2件あって注目を集めた。コロナ禍を逆手にとって、アジア圏のユーザーの満足度を高めることに成功したといえそうだ。

 MOEは創薬研究を目的とした高機能・多機能ソフトで、最近は抗体や核酸、ペプチドなど創薬モダリティに対応する機能に関心が集まっているが、低分子薬に注目した機能も新しい手法を取り込んでグレードアップしてきている。とくに、「MOE/Web」機能を利用して、ウェブブラウザーから利用できるアプリケーションが充実しているのが特徴で、計算に不慣れなメディシナルケミスト(メドケム)にも使いやすい。とくに、化合物ライブラリーの生成と試薬検索を合理化する「コンビナトリアルライブラリーエニュメレーション」(CLE)は対話的な操作で反応クエリーの調整や購入する試薬の選択ができるようになっており、メドケムの思考に沿って作業を自動化することが可能。また、構造活性相関解析をわかりやすく行う「MOEsaic」も機能強化され、化合物と受容体のドッキング計算が行えるようになった。計算結果を3次元ビューアーで可視化することができる。

 さらに、MOEの姉妹製品であるタンパク質立体構造データベース「PSILO」の引き合いも増加している。その背景として、クライオ電子顕微鏡の普及や、人工知能(AI)で立体構造を予測するAlphaFold(アルファフォールド)が注目されたことで、タンパク質の公共データ(PDB)だけでなく、これらのインハウスデータもまとめて一括管理したいというニーズが広がったことがあるようだ。PSILOには、PDBデータを自動更新するとともに、インハウスデータを一括登録する機能があり、両方のデータをまとめてバージョンコントロール、辞書ファイルに基づくリガンド構造の修正、自動ファミリー検出、配列アノテーション、タンパク質ファミリーデータベースに追加するなどの機能が備わっている。

 そのほか、MOE以外の創薬研究向けソフトでは、独バイオソルヴIT製品の注目度が高い。とりわけ最近の欧米製薬企業は低分子の広大なケミカルスペースを探索しており、日本企業が数億単位の事例が多いところ、欧米は10の26乗まで探索した例もあるという。これには、同社の超高速探索ツール「InfiniSee」が使われており、一般的なノートPCでも5〜10分で10の20乗個の分子からの探索が可能。数兆の大規模ライブラリーも商用化されつつあり、巨大ケミカルスペース探索はすでに手の届くところになってきている。

 一方、材料研究向けの主力M&S製品が、米マテリアルズデザインの「MedeA」である。第一原理計算や力場計算をもとに材料のさまざまな物性を算出できるが、今年10月に開催されたユーザー会では4つの招待講演のうち2つのテーマが機械学習ポテンシャル(MLP)だったという。力場計算の計算コストで第一原理計算と同等のシミュレーションができることから、ユーザーの関心は非常に高く、国内でも熱のある問い合わせが増えている。MedeAにはすぐに利用できるMLPと、MLPを作成・最適化するジェネレーターが用意されている。第一原理計算が対応できなかった大きな系、ポテンシャルがなくて力場計算できなかった系などがMLPでシミュレーション可能であり、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の目的でも注目するユーザーが多い。


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