CCS特集2022年冬:シュレーディンガー

計算の高度化で物性予測、MIでのアイデア創出加速

 2022.12.01−シュレーディンガーは生命科学と材料科学の両分野におけるモデリング&シミュレーション(M&S)で先進的な技術を持っており、今年度も業績は好調。とくに、製薬企業との共同あるいは独自で行う創薬事業が成長しており、いくつもの重要なマイルストーンに達している。一方、材料科学分野でも大きな進展があり、M&S技術をますます磨くとともに、人工知能(AI)/機械学習と組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)プラットフォームとしても強みを発揮しつつある。

 同社は、創薬研究向けのコミュニケーションツールとして開発した「LiveDesign」を、MIのためのデータ駆動型アイデア創出プラットフォームと位置づけて機能強化してきている。材料分野では、データが足りないだけでなく、仮にあっても活用できる形にデータが整理されていない場合がほとんど。また機械学習の知識が不足していたり、一部の担当者に依頼が集中して回らなくなったりする問題も散見される。

 そこで、データ活用で先行している創薬研究分野のノウハウを材料研究に反映させるのがLiveDesignの役割。データについては、「純物質」だけでなく、純物質に配合を加えた「混合物」、混合物に加工条件を付加した「加工物」、加工物に加工条件を加えて「成形物」といった単位で管理することが可能。MIで利用する計算化学やデータ科学の解析手法を専任者があらかじめ定義しておけば、一般研究者・実験者はデータを入れるだけで計算結果や解析結果が得られ、そこからアイデア創出につなげることが可能。LiveDesignをプラットフォームにすることで、研究チームとしてのコラボレーションをスムーズにすることができる。

 とくに、同社が得意とするM&Sによって利用できるデータを増やすことが可能。高精度なOPLS4力場、GPU対応の分子動力学ソフト「Desmond」を利用し、ポリマー物性としてガラス転移温度をはじめ、応力ひずみ曲線、破断、架橋、相溶性、溶媒への溶解性、吸水率、また周波数依存性を考慮した誘電率・誘電正接や屈折率も算出することができる。架橋などの化学反応が関係する現象でも、複雑な計算手順が自動化されており、GUIを利用していくつかの項目を定義するだけで簡単に利用できるという。

 シミュレーションで得たデータを加えて機械学習を行い、粗いスクリーニングを実施した上で、さらに精密なシミュレーションで候補物質を絞り込むといった使い方が現実的になってきている。例えば、アクティブラーニングの手法では、MPOスコアを用いて複数の物性値(大きい方が良い、小さい方が良い、一定の範囲内が良いなど)を同時に扱い、好ましいバランスを総合的なスコアとして算出したものを使う。用意した9,000構造からランダムに50個選んで量子化学計算を行い、MPOスコアを目的変数とする機械学習モデルを作成、このモデルに残る8,950構造を通し、最初の50構造とは構造のタイプが異なるハイスコア構造を選んで、もう一度機械学習モデルを作成する。そこからトップ50を選択し直して最初に戻り、手順を繰り返す。このような形で幅広い化合物空間を効率良く探索し、短時間でモデルの精度を高めることが可能だという。


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