CCS特集2023年夏:Preferred Computational Chemistry

クラウドサービス米国へ、深層学習で材料計算を高速化

 2023.06.28−Preferred Computational Chemistry(PFCC)は、Preferred Networks(PFN)とENEOSの合弁会社で、革新的な材料の創出に貢献する汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis」をクラウドで提供するサービスを実施。設立3年目に入っているが、国内での実績・ユーザー数は順調に拡大しており、4月からは米国市場でのサービスも開始した。

 Matlantisは、高い汎用性と精度を備えた独自のニューラルネットワークポテンシャル(NNP)を利用することにより、原子スケールで材料の挙動を再現して大規模な材料探索を行うことが可能。同社のNNPは“PFP”(Preferred Potential)と呼ばれているが、これは親会社のPFNが持つ深層学習技術とスーパーコンピューターを使った膨大な物理シミュレーション結果を学習させることによって構築したもの。GPU換算で1,650年に相当する計算量で生成されているという。

 このPFPをコアにしたMatlantisは、密度汎関数法(DFT)と同等の精度の計算を最大2,000万倍高速に実行可能。72種類の元素に対応し、2万原子までの系を解析できる。国内ではすでに60の企業、大学、研究機関に利用されている。クラウドサービスであるため、基本的に世界中どこからでも利用できるが、今年の4月からは本格的に米国市場に進出した。5月には米国向けセミナーを開始。Matlantisを使用しているマサチューセッツ工科大学のJu Li教授の講演などが行われ、想定を超える150人が参加したということで、注目度は高かったようだ。PFCC内に米国向け専門部隊も組織されており、将来的には事務所の開設も検討したいとしている。NNPによる計算サービスをクラウドで提供する事業者は米国でも目新しいとされ、今後の反響が期待される。

 一方、親会社のPFNは、幅広い分野を対象に深層学習のビジネス応用を図っているが、その1つとして創薬や材料探索分野での受託研究事業を展開している。そうした研究の成果がMatlantisにフィードバックされており、それによってMatlantisの速度、精度、系の大規模化がさらに加速していくことになる。また、神戸大学と共同で深層学習用プロセッサー「MN-Core」を開発しているが、現行の12ナノメートルからさらに微細化した7ナノメートル技術を用いた「MN-Core2」の開発を推進中である。


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